第1180話、利口

 村に滞在する一日の間、シオとペイは全力で遊んでいた。

 ただそこに犬と猫も遊んでいた為か、村の数少ない子供も混ざってしまう。

 するとどうしてもペイは少し気を張ってしまうが、そこは流石シオと言うべきか。


 村の子供と一緒に無邪気に遊び、気が付けばペイもそれに引き込まれていた。

 因みにヨイチは子供の扱いに困っていた。何処か恐る恐る相手をしていた様に見える。

 下手に触れば壊れてしまう。そんな感じの扱い方な所があった。


 ・・・気を使っていたんだ。シオに言われてではなく、自らの意思で。


 そこに少し気になるものを覚えつつ、だが特に問題は無いので放置した。

 俺は木陰で静かに鍛錬をして、そうして遊び疲れたガキ共は夕暮れ時にくたばった。

 シオは体力的には問題無いので、満足感とその場の空気な気もするが。


「すぴー・・・すぴー・・・」

「すー・・・すー・・・」

『すぴー・・・すぴぴー・・・』


 お互いに抱きしめる様にしながら、丸まって寝ている様子は子猫のようだ。

 その子猫共を体で包む親猫は、優しい目で二人を見詰めていた。

 精霊は鼻ちょうちんを作っているが、お前本当に寝てるのかそれは。


「シャシャ、邪魔になったら起こして良いぞ」

「にゃ~」


 一応親猫に声をかけてから、俺はどうしたものかなとヨイチに視線を向ける。

 あちらはあちらで村の子供がくたばっている。ただその位置が、ヨイチの膝の上だ。

 ヨイチは子供達が落ちない様に腕でも支え、さっきからピクリとも動かない。


 まるでそういうデザインの椅子か何かの様に、子供を支えてじっと見つめている。

 ただその表情は良く解らない。ただただ真顔でじっと見つめているからな。


「・・・きゅー」


 ただ時折小さく鳴き声を上げており、それでも表情は変わらない。

 本当にアレは何を考えているのやら。俺にはさっぱり解らん。

 シオは何処か解った風な接し方をしているのも、俺には良く解らない事の一つだ。


 本当にシオの言う通り、危険は無いのだろうか。俺には本当に解らん。


「おにーちゃん、ありがとうねぇ」

「同年代の子供って少ないから、随分はしゃいじゃったみたいだね」


 そうして暫くすると、眠る子供達を親が引き取って行った。

 起こしても起きないので、皆抱えて連れ帰られたが。

 ただペイとシャシャに関してはそのままだ。


 余りに小さな村に泊まる家など無いので、どうしても泊るなら村長の家になる。

 だがこの商隊は野宿上等の組織なので、村の外れで野営の方が気が楽らしい。

 今はシャシャが居るから余計にだ。コイツ一匹で色々な荷物が要らなくなる。


 水は出せるし火は起こせるし竈も即興で作れる。なんなら鍋も頑張れば作れるだろう。

 頭としては猫を使い潰す気は無いんだが、本猫が率先してやるので諦めたらしい。

 多分猫からしてみれば、護衛以外の価値も見せてペイの為に働いているんだろう。


「シャシャはそのまま面倒見てると良いよ。起こすのも可哀そうだろう?」

「にゃ・・・」

「良いから良いから。寝かしてあげるといい」

「にゃ~・・・」


 ただ今回はシオとペイが寝ているので、猫は動けずに少し悩んでいた。

 それを頭が良しと説得したので、猫は少し申し訳なさそうに了承する。

 本当に利口な猫だ。魔獣とはいえ頭が良すぎる。


 まさかアイツも実験体だったのでは、等と少し思ってしまうな。


「きゅ・・・」

「ん? どうした、もう俺の事は怖くないのか?」


 そこでヨイチが俺に近寄って来た。あれだけ俺の事を警戒していたのに。

 いや、今も少し警戒している様子は有るが、普段よりマシという感じか。

 何時もなら俺が傍に寄ると「ぎぃ」と鳴いて体に力が入るからな。


 だが今はそんな様子もなく、俺を見詰めるヨイチを見つめ返す。


「・・・ヨイチ、ここ、いて、いい?」

「—————っ!」


 そしてヨイチの発した言葉に、思わず目を見開いてしままった。

 それは今までの様な、ただ教えられた言葉を繰り返した物ではない。

 明確に本人の意思の乗った、ちゃんと意味のある言葉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る