第1179話、手紙の差出場所

「シャシャ、いくよー」

「みゃっ」

「うっ、よいちー」

「きゅっ」

『そして兄の出番だああああああべふっ』

「わふっ」

『ああっ、次こそ僕が取るはずだったのにー! いぬー! 何回踏むんだー! こらまてー!』


 木陰に腰を下ろして、ボール遊びをする子供達を眺める。

 純粋に子供なのは一人だけで、残りはどうなのかと悩む所だが。

 いやまあ、シオとヨイチも一応子供カウントで良いのか。


 精霊は参加したい様だが、シオ以外には見えないので悉く犬に邪魔されている。

 何なら何度か踏まれていて、踏んだはずの犬は一切気が付いていない。

 シオはそんな精霊を気遣うかと思ったが、ニコニコしながら遊び続けていた。


 シオ目線では、アレは精霊も楽しんでいる、という事だろうか。


「ミク様、お隣宜しいですか?」

「どこにでも好きに座れ。俺も勝手に座っているだけだ」


 商隊頭がやって来て、許可を得てから厳つい体を隣に下ろす。

 相変わらず商人らしくない図体の男だ。顔だけは穏やかなんだがな。


「前回も言いましたが、ありがとうございます」

「俺には必要無い。来たいと言ったのはシオだ。前回と同じくな」

「ふふっ、そうですね。シオちゃんにはお礼を言わないと。あの子があんな風にただの子供の顔になれるのは、シオちゃんと一緒の時だけですから」

「村の子供では駄目か」

「ええ。たとえ遊んでいたとしても、商会の人間として気を使っていますから。何か問題が有れば商会が責を問われるかもしれないと。本当に、優しくて賢い困った子です」


 困った子か。コイツ等にしてみればそうなんだろうな。

 会長は彼女の心を想い、仕事をさせる事で罪の意識を軽くさせた。

 本音意を言えばこいつも会長も、彼女に仕事などさせずに済ませたいのだろう。


 ただの子供らしく、自分の罪など忘れてしまって、無邪気に遊んで欲しいと。

 だがそれは無理だ。ペイは自分の死すら覚悟して罪を告白する人間だ。

 子供でありながら子供らしくない覚悟を持ち、子供らしい純粋さと道徳を持つ。


 結果的に母親を奪われた上に殺され、自身も騙され殺されかけたというのにだ。


「そういえば、シオが手紙を出したいと言っていた。商会に送ればそのままペイに届くか?」

「ええ、少し受け取り時期はずれると思いますが、間違いなく」

「解った。では武王に頼んでおこう」

「はぃ・・・え、待って下さい。何故陛下に?」


 商隊頭は頷きかけて、国王が絡む事に気が付き慌てる様子を見せる。


「武王の孫がシオに求婚してな。結局婚約も何もしていないが、手紙で交友を温めようという話になっている。多分シオは二人分書くと思うから、一緒に送れば手間が省けるだろう」

「・・・会長が陛下のご友人なので、それでも問題は無い、のでしょうか」


 全く無いと思うぞ。武王と会長が生きている間に限るだろうがな。

 あの二人の会話を見ていた限り、どちらかというと会長の方が立場は上だ。

 勿論公的には武王だろうが、その武王に堂々と文句を言える時点でな。


 過去散々迷惑をかけられたから、という関係性が在るんだとは思うが。

 後は武王の発言を信じるなら、過去の会長も武王に負けず劣らずな人物だったか?


「いえ、そこじゃないですね、王子様がシオちゃんに求婚? 本当ですか?」

「俺が嘘を吐く意味が有るか?」

「いえ、無いですけど、信じ難いと言うか、何と言うか・・・」

「だが事実だ。まあ、シオは断ったが、孫の方は諦めていない」

「・・・ミク様は、それでよろしいのですか?」

「俺が? 何故俺が口を出す必要が有る。シオの事はシオが決めるべきだ。俺はアイツに判断材料を教える事は有っても、決断を無理強い知るつもりはない。アイツの人生はアイツの物だ」


 そもそも俺が我が儘に生きているのに、シオに我が儘を言うなと言うのがおかしい。

 ただしお互いの我が儘が許容できなくなった時が、別の道を歩む時だろう。

 ヨイチが我が儘を言い出した時は、俺との対立の可能性が在るので問題だが。


「そうですか・・・ミク様は厳しいのか優しいのか、難しい方ですねぇ」

「厳しいだろう。子供に自己判断を求めるんだぞ?」

「それを告げるミク様自身が子供でなければ、そうかもしれませんね」

「はっ、言ってくれる」


 子供が子供に判断を求めるのは当然と言いたい訳か。

 残念ながら、俺は中身が子供ではないんだがな。

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