第655話、どちらにせよ結末は変わらない
さて、中々に興味深い話が聞けた。呪いの件と軍は無関係では無かったか。
つまり策に入っていた事であり、実験の為ではない可能性が上がる。
とはいえそういう風に伝えた上での実験だった、かもしれない訳だが。
何にせよココに来なければ知れない情報だったな。
兵士達に聞いても良かったが、素直に教えてくれるかは怪しいしな。
態度の悪い兵士なら殴り飛ばす事に呵責は無いが、良い奴だったしなアイツ。
他に聞く事は有るだろうか・・・多分ないな。こいつ下っ端だろうし。
気が付いたら措いて行かれたという事は、捨て駒勢だろうからな。
「それで・・・俺はこのまま殺されるのか。それとも兵士に突き出されるのか?」
俺が黙った事で男はごくりと喉を鳴らし、神妙な顔で訊ねて来た。
どうやら処分をどうするか悩んでいると思ったらしい。
抵抗するつもりは見えない。先の一合で力量差を理解したか。
「貴様を殺す意味が無い。貴様が俺を傷つける気は無かっただろう事は、一応理解している」
「それは、そう、だが、信じるのか?」
「貴様は武器を持っているのに、あくまで脅しだけでそちらを俺に突き出さなかった。力づくで奪うのであれば、斬り殺す方が早い。荷物を渡せば本当に見逃すつもりだったんだろう。本当にそうなったかどうかは解らんが、一応はそういう動きではあった」
「あ、ああ・・・」
だからこそ投げ飛ばすだけで済ませたし、素直に答えた以上痛めつけてもいない。
これが初手から俺を殺す気だったなら、今頃ゆっくり肉片にしている。
「だが貴様を見逃すつもりも無い。俺を殺す気は無かったとしても、相手が俺だから問題が無いだけの事だ。荷物も無くなり無一文になった子供の先など暗いのは知れている。結局の所その場で傷をつけなかっただけで、貴様のやった事はただの半端な行為だ」
「うっ・・・そう、だな」
勿論子供にもそれぞれ事情があ有るだろう。
むしろ子供の一人旅など、絶対に何かしらの事情がある。
俺だって他とは質が違うが、化け物だから一人旅が出来ているだけだ。
だが化け物ではない、やむにやまれず一人旅をしている子供から、その荷を奪う。
それは殺す事と何が違う。下手をすれば死より苦しい未来が待っている可能性すらある。
この男がやった事は、そういう先の不幸から目を逸らした、半端な犯罪だ。
こいつが狙ったのは『俺』じゃない。弱い『子供』だ。
「貴様は軍に突き出す。それだけで勘弁してやる。逃げるなら容赦はしない」
「・・・解った。連れて行ってくれ」
この男がどうなるかは解らない。
俺は捕虜の扱いも、そもそもコイツを捕虜として扱うのかも。
降参して投降したのならばともかく、逃げ出して野盗になったのだから。
きっと兵士としては扱われないだろう。ただの犯罪者として捕縛される。
その上で拷問の可能性も有るだろうな。他に仲間は居ないのか吐けと。
だがそれも自業自得だ。逃げただけなら兎も角、人を襲った時点で。
これも悪党の一つの結末に過ぎない。なら俺はその終わりを下すだけだ。
「悪いが俺は童話の様に、おじさん可哀そうだね、等と言う優しさは無いからな」
「・・・ああ、解っているさ。それぐらいでないと、子供の一人旅なんてしないだろうよ」
完全に諦めた男から視線を外し、鞄を持って街道に目を向ける。
兵士が来る様子は無い。叫んでいないし仕方ないか。
取り合えず兵士が見つかる迄この男を歩かせるとしよう。
『妹ー! 木の実まだいっぱいあったー! さっきの全部食べちゃったから、妹が拗ねると良くないと思って兄が慌てていっぱい集めて来たよ! 一緒に食べよー!』
姿が見えないと思ったら、お前は何をしてるんだ。
というか何だその毒々しい色の実。食べれるのかそれ。
『ちょっと体がしびびってするかもしれないけど、良いアクセントだよね!』
「捨てて来い。いや、全部この場で潰す」
『何で?!?!??!??』
何でも何も、完全に毒が混ざってるだろうがそれは。
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