第653話、残党への疑問
検問を抜けた後、暫くポテポテのんびり歩いてみた。
別に歩かなければいけない訳ではなく、少々気になる事が有ったからだ。
あの兵士は敵の残党という話をしていた。つまり敗走、壊走した訳だ。
敗残兵の残党というのは、実に質の悪い存在だ。
戦争に勝てるなら良い。だが勝てない、負けると判断した瞬間行動が変わる。
簡単に言えば周辺の村や町を襲い、火をつけ、略奪する野盗となる。
勿論勝っていてもやる連中は居るが、逃げる連中の方がやる可能性は高い。
だから逃がせない。逃がす訳には行かない。見つけ次第叩き殺す。
捕虜として大人しく捕まるなら兎も角、逃げ出す連中は絶対に捨て置けない。
何より話から受け取った感じ、軍として敗走した感じでもない。
散り散りに逃げ出した。そんな感じに聞こえた。単独で潜んでいるだろうと。
ただ俺が一番気になっているのはそこではなく、兵士達が『逃げ出した』という点だ。
「・・・砦であんな無謀な戦闘をした連中が、そう簡単に逃げ出すものだろうか」
『ぬーん? 逃げ出すの? すたこらさっさー?』
サーラの領地での戦闘は、おおよそ戦闘と言えるようなものでは無かった。
普通籠城戦になる場合、外の兵士を殺す為の兵士と言う物が必要になる。
だがこの世界は魔術が有る師、弓兵も中々に化け物じみている連中が居る。
なので戦争が遠距離だけで決してしまう事も多い様だ。
あの一戦がまさにそうだった。そして立地の関係で一方的だった。
砦の破壊でも出来れば別なんだろうが、連中にその手立ても無かったしな。
砦に取りつく事は出来ず。攻撃に魔術を回す事も出来ず、ただ朽ちて行った。
無謀だ。ただの徒労だ。命を無駄に散らしただけの無意味な事だった。
アレは戦争じゃない。戦争と名をつけただけの虐殺でしかない。
だがそれでも止まりはしなかった。祖国の為に、家族の為に、引かなかった。
「なあ、その辺り話を聞かせて貰えないか」
『お話をしよう!』
「っ!?」
暫くポテポテと歩き、兵士達の気配が遠のいた辺りで、俺を付ける気配があった。
通行人や車は普通に有るので、その間は俺に近づくつもりは無かったんだろう。
だが丁度人の気配が薄いこの瞬間、俺を襲う為に姿を現そうとしていた。
とはいえ後ろから襲う算段だった所を、俺が振り向いて声をかけた訳だが。
「気が付いてやがったのか・・・まあ良い。食料と金を寄こせ。そうしたら殺しはしねぇ」
「断る。この弁当は美味いんだ」
『そうだぞー! 食堂の弁当なんだぞー! だれがやるかー!』
「そうかよっ」
男は問答の時間も惜しいとばかりに地を蹴り、俺を組み伏せようと手を伸ばす。
ナイフを先に向けなかった辺り、本当に殺す気は無かったのかもしれない。
だからと言って大人しくやられる理由も無いので、その手を取って木に投げつけた。
「がはっ!?」
『ナイスショット!』
「ショットでは無いだろう」
加減をして投げたので生きてはいるが、背中を強打した男は呼吸が出来ないでいる。
その男の手を握って引きずり、人目のつかない森の中へと入って行く。
男は呼吸できない喉で何とか息を吸おうとしつつ、化け物でも見る様な目を俺に向けた。
「あっ・・・かっ・・・なん、お前・・・・!」
「ただの化け物さ」
『ただの精霊さー!』
ニヤリと笑って男に応え、ずんずんと進んで行く。
そして丁度良いだろうと思った所で男を放り投げた。
「ぐっ・・・はぁ・・・げほっ・・・俺を、どうする、んだ」
「何、少し話を聞きたいと思ってな。正直に話せば見逃してやる」
「わ、わかった・・・は、はなす、何でも、はなす・・・!」
『素直で宜しい!』
本当に、随分と素直だな。砦の方の連中はアレだけ聞き訳が悪かったのに。
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