第627話、手のかかる友人
湯あみを終えたらすぐに寝室に向かい、サーラと一緒にベッドに転がる。
てっきり部屋だけかと思ったら、ベッドも同じが良いらしい。
良く解らんが、別に拒否する事でもない。好きにすれば良いだろう。
「ふふっ、実は夢だったのよね。友人とこうやって一緒に寝るのって」
『おー、妹が夢をかなえてあげたね!』
「今までは無かったのか」
「友人じゃない人しか居なかったし、隣で寝れる様な信用出来る相手は居なかったわ」
毎度の事だが、コイツの友人関係の話は暗い話しかないな。
彼女にとっては気にする事でも無いのだろうが。
「俺以外の友人にも作れば簡単に出来る事だろう」
『簡単・・・? 妹、友達少ないよね・・・?』
煩い、俺はそれで良いんだよ。別に作るつもりも無いんだからな。
「貴族社会で信用できる友人って中々難しいわよ。特に令嬢は。頭お花畑のご令嬢達は友人だと思っている相手に、あっさり裏切られるし、裏切った側も頭お花畑で自覚無かったりするし」
「お花畑じゃないのも居るだろう」
『頭にお花咲いてるの!? 何それかっこいい!』
・・・お前のセンス本当にどうなってるんだ。羽の次は花か。
止めろよ。頼むからサーラの頭に花を挿すとかやるなよ。
ただでさえ不意に二枚の羽が視界に入ると、ちょっと面白いんだからな。
「むしろそっちの方が信用がもっと出来ないわ。貴族としての付き合いはしても、本当の意味で友人になれる気はしないわね。利害関係の絡む仕事相手でしかないわ」
根本的に貴族は信用ならない。彼女の言っている事はそういう意味だ。
そんな中で友人を作ろうと考えると、どうしたって警戒心が先に立つ。
となると余計に踏み込みが浅くなるし、浅い関係では友人とは言えないだろう。
「まあ俺はお前が友人を作れなくとも知った事では無いが、それこそ友人が居なければ貴族社会では上手く行かないんじゃないのか。今は俺の存在があるから良いかもしれんがな」
「まあ、そうね。そこは否定しないわ」
『お友達いっぱい居た方が楽しそうだもんねー?』
今は俺が王都で暴れた事が有り、そんな俺と繋がりが有る事で周囲が大人しい。
むしろすり寄ってくる人間も居るだろうし、忖度してくる連中も多いだろう。
だが俺は無敵の存在じゃないし、国の政治にかかわる気は毛頭ない。
俺が国に対し何ら行動をとらなくなる、ないし存在が消えれば状況は変わる。
彼女が許されているのは今だからだ。何時かは俺の居ない状況で立つ必要が有る。
とはいえその辺りは俺などよりも、彼女の父親の方がしっかり考えていそうだがな。
「・・・ねえ、手を握っても良いかしら」
「寝てる時に握りつぶしても良いなら構わんぞ」
「あら怖い。ならその時はちゃんと治してね」
『妹は寝相は良いから大丈夫だよ!』
怖いと言いながら一切躊躇なく手を握り、嬉しそうに微笑んでから目を瞑るサーラ。
柔らかだが少し硬さが出て来た手。剣の稽古を始めた子供の手。
これからを生きる覚悟をした少女の手を握り返し、俺も目を瞑った。
「・・・助けに来てくれて、ありがとう。大好きよ、ミク様」
意識が落ちる少し前に、彼女の小さな呟きを聞いた気がした。
確認する気は無く、する必要も無い。そう思い黙ったまま意識を落とした。
そうして疲れていたのか、翌朝は少し起きるのが遅かった。
目が覚めると翌朝に聞く鳥の声は無く、窓の外は思いきり明るい。
おそらく昼にはなっていないだろうが、朝というには少々遅い時間だ。
「ん・・・ミク様、おはよう・・・ふあああ」
俺が動いたからかサーラも目を覚まし、大あくびをして背を伸ばす。
「・・・ん・・・おはよう」
「今日は起きてないわね」
「・・・おきてる・・・何度も言ってるやよ・・・」
ちゃんと挨拶をしたというのに、起きてないと断言しやがった。
最初に提案した通り、兵士に寝起きを襲わせるべきだったな。
などと考えている間に、彼女は窓際に向かっていった。
「もう朝と言うには遅いわね。気を使って誰も起こしに来なかったって所かしら。そうだミク様、朝食はどうするの。食べてたら少し出発が遅くなるかもしれないけど」
「食べて良い、なら・・・食べゆ・・・」
別に少し遅れた所で今更だ。食事をとる余裕ぐらいはある。
そう思い返答をし、ゆっくりベッドから降りてポテポテ歩きだす。
「そう。それじゃ用意させるわね・・・その前に待った。ミク様待って。その恰好で出るのは止めましょう。幾ら私達が子供でも、その恰好は駄目だから。その寝巻は薄いから。ね」
「ん? んー、うん・・・わかった・・・」
「解ってない解ってない。床に座って寝ないで。何でこれで起きてるって言い張れるの」
起きてる。ちゃんと会話は出来てる。着替えれば良いんだろう?
座った方が脱ぎやすいんだよ。立ったままだとふらつくから。
「ちょっと誰か来てー。ミク様着替えさせるからー。あ、もう脱ぎ散らかしてるから男性は厳禁だからね。ああもう、本当に朝だけは普段と違い過ぎるんだから・・・ふふっ」
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