第417話、やけ食い
「あ、あの、ミク様、大丈夫ですか?」
『妹よー! しっかりするんだー! 兄が付いているぞー!』
『儂、そんなに落ち込む様な事を言ったかの・・・』
余りにもショックを受けた事で、食事の手も止まって項垂れてしまった。
そのまま動かない俺を見て使用人も心配を始め、猫ですら心配そうな様子を見せている。
しかしどうしようもない現実に直面した人間は、声が聞こえても反応が出来ない。
とはいえ何時までも項垂れていられない。現実は受け止めなければならないんだ。
たとえ心の底から否定したい事であっても、何時までも落ち込んではいられない。
ああ、解ってる。解っているさ。落ち込んでも現実は変わらないんだからな。
そう自分に言い聞かせて顔を上げ、天上を仰いだ後、大きな溜息を吐いて下を向いた。
「・・・問題無い。もう受け入れた。うん、受け入れた。大丈夫だ」
もう一つ大きな溜息を吐いてから、顔を上げてそう告げる。
返答というよりも半分は・・・いや、半分以上自分に言い聞かせているが。
そんな俺に使用人と精霊はホッとした顔を見せ、猫は困惑顔で俺を見つめている。
『よかったぁー。そんなに兄が食べてる物が美味しそうだったの? ちゃんと分けてあげるんだから、心配しなくて良いんだよ。ほら、これもお食べー』
「・・・」
いや、精霊は何も解ってないままだな。そんな気はしていたが。
誰が食い意地でここまで落ち込むか。お前じゃないんだから。
渡されずとも食べる。ああもう良いから置いておけ。ソースがテーブルに垂れる。
「・・・承知致しました」
使用人は安堵はしたのか、それ以上余計な事は言わずにスッと下がった。
いや、少し気になってはいる様だが、一応様子見といった所か。
本気で俺を案じている辺り、さっきの感謝の言葉も本気なのだろうな。
『良く解らんが、悪かったの。何が傷ついたのかは本当に解っておらんが・・・』
「いや、良い。別に猫が悪い訳じゃ無い。俺の都合だ」
猫は猫で本気で良く解らない様子で謝り、だが別に猫が悪い訳じゃ無い。
むしろ早めに覚悟を決められたという点では、猫のおかげと言えるだろう。
どれだけ足掻いても無駄なのだと。厳しい現実を早めに知る事が出来たんだと。
『そうか? なら良いのだが。流石の儂も赤子を虐める趣味は無いのでな。揶揄う程度なら気にせんが、そこまで落ち込ませる様な真似をするつもりは無かったのは信じておくれ』
「解ってる。お前はただ事実を言っただけだ。解っているからこの話題はもう止めよう」
『そ、そうか。解った。止めよう』
猫に悪気は無かったのだろうが、これ以上続けると話が戻る。
今の俺は現実を言受け入れたというより、考えないようにしているのが近い。
なので態々思い出して落ち込む趣味は無い以上、この話は早めに終わらせる方が良い。
「・・・食うか」
『おー、お食べー! 兄のお勧めはこのお肉です。歯ごたえが良い!』
『んー・・・儂はお暇するとしようかの。また改めて話す場でも作るとしよう。ではの』
取り合えず食う事に集中するべく手を動かし、その間に猫は部屋を去って行った。
何かまた来るとか言ってた気もするが、今は全部どうでも良い。
やけ食いだ。とにかく食う。食って忘れる。今はそれが一番良い。
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