第415話、関わりたくない相手

「・・・取り合えず事情は分かった。本題の夕食は今すぐ用意できるのか?」

「はい。お部屋でのお食事でも、食堂でもどちらでもお望みの場所で」

「お前達としては、部屋で食べて貰う方が良いんじゃないのか」


 俺が部屋から出れば、それだけ問題が起きる確率は上がる。

 勿論先んじて対処するのだろうが、全てにおいて完璧などありえない。

 何処かで失敗が生じ、騒動になる可能性はゼロとは言えない。


 むしろ俺としては、自ら騒動を起こそうと思っているから尚の事だ。


「いいえ。どちらでも構いません。ただ食堂に出るとなると、あの方と顔を合わせる事になルかもしれませんので、それでよろしければという事になりますが」

「あの方?」

「ンビュミャム様でございます」


 ・・・誰だ? ああ、いや、思い出した。あの精霊付きの名前だ。

 なんかそんな感じの名前だった気がする。全然覚えていないが

 食堂で食うのか。顔を合わせたらまた何か話しかけられそうだな。


「・・・それは面倒だな」

「だと思われましたので、先にお伝えいたしました。謁見の間での会話に余り宜しくない雰囲気があったと、そう聞いておりますので」

「宜しくないというか、会話が面倒になっただけだがな」


 アイツはクソ真面目だが、融通の利かないタイプのクソ真面目なんだよな。

 昔の俺と同じというか、やるべき事をやるという、ただそれだけしか考えていない感じだ。

 俺に付いた騎士と使用人も真面目ではあるが、コイツ等は柔軟性の有るタイプだよな。


 なのでコイツ等との会話に面倒さは無いが、アイツとの会話は疲れる予感がする。

 実際面倒になったしな。まるで俺が戦うのが当然みたいな態度だったし。

 何で俺がそんな義務じみた事をしなければならないのか。勝手にお前らでやってろ。


「・・・力を持つ者には義務が生じるとか何とか、そんな話のある創作が幾つか有ったな」

「力を持つ義務で御座いますか」

「ああ、力を持つ者はその力の使い道を考えなければならん、という啓蒙めいた話だよ。俺の知る創作には良くある言葉の類だ。俺としては馬鹿馬鹿しいとしか思えんがな」

「ですがあの方は、その言葉の体現の様な方ですね」

「そうだ。だから俺とは確実に反りが合わない」


 力を持つ事に義務など存在しない。必要なのは力を振るう事への覚悟だ。

 その力をどう振るう事で、どんな結果になろうとも受け入れる覚悟。

 力の使い方そのものに縛りなど存在せず、ただ反動が存在するに過ぎない。


 我が儘を通せば、当然同じ様に我が儘を通して来る相手が現れる様に。

 悪党が悪事を起こせば、悪党を裁く人間が現れる様に。

 力を悪事に使えば、同じ様な力でもって潰される。


 ただそれだけの事だ。義務だのなんだのそんな物はどこにも無い。

 むしろそんな義務が有るのであれば、大規模な暗殺組織など生まれていない。

 そしてこれをアイツに語ったとしても、納得するかどうか怪しく感じる。


 つまり会話するだけ無駄で、ただの徒労に終わる可能性が高い。


「仕方ない、部屋に用意してくれ」

「畏まりました、ではすぐにお持ち――――」

「それと俺はお前達の想像以上に食うぞ。だからどんどん作って送って来るつもりで居ろよ」

「――――畏まりました。厨房の者にその旨を伝えておきます」


 運んで来るお前らも大変だと思うが、それは承知の上か。

 俺としては今の言葉がどこまで通じているのか、という疑問が残るが。

 とりあえず様子見をするとしよう。そう判断して出て行く使用人を見送る。


 そして少し待つと料理が運び込まれ―――――――。


「・・・しょっぱなから随分持って来たな」


 居間の一つに大きなテーブルがあったが、その上がほぼ全て埋まる程の量だ。

 小娘一人の為に作ったにしては、明らかに多すぎる量だと思う。

 まさかちゃんと意図通りに出て来るとは思わなかった。


「多かったでしょうか」

「いや、まだ足りん程度だな」

「畏まりました。追加を作らせておきます」


 驚きもしない返答は凄いな。一緒に来た他の使用人も同じ反応だし。

 事前に何を言われても驚かないように、とでも注意を受けていたか。

 まあ良いか。とりあえずんびりと食事をしよう。


 と思っていたのに。


「・・・何の用だ、猫」


 食事中の俺の目の前に、白猫の精霊が突然壁を通り抜けて現れた。

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