第414話、仇と敵
「一体何の話をしている。俺はお前達に何かした覚えなど無いぞ」
「承知しております。ミク様はただ売られた喧嘩を買っただけ。それは重々承知した上で、我々にとって貴女はあの男を、そしてあの男の組織を壊滅に追い込んで下さった恩人です」
「・・・ああ、暗殺組織か」
俺が王都に来る事になった理由。暗殺組織を抱えた大貴族。
ソイツ本人の地位も問題だった様だが、何より問題なのは大き過ぎる組織。
殆ど国の全ての場所に仮拠点が有ると考えれば、規模が馬鹿げている。
それもこれも本来摘発する側の貴族が、奴らの所在を隠していたからだ。
だがもう奴らを守る貴族は居ない。奴らを支持していた頭も消えた。
となれば統制を失っていなかったとしても、今までの様な行動は不可能だ。
もし生き残りが居たとしても、ボロを出して捕まっている事だろう。
暗殺組織での生き方を捨てて、一般人に混ざっていれば別ではあるが。
「貴女は、仇を取ってくれた方です。私にとっては、それだけでも恩人でございます」
「・・・仇か。奴に殺された確証が有るのか」
「証拠はございません。ですので私の妄言と言われても致し方ありません。ですがあの子を殺したのは、弟を殺したのはあの男だと確信しておりました」
仇は討たれた。自分の手ではなく、他者の手によって。
だが自身では届かなかった相手を下してくれた存在。
そんな人間が目の前に現れたら、たとえ勝手な行動でも感謝するか。
「まあ、別に勝手にすれば良い。俺は俺のやりたい事をやっただけだ」
「はい。ですのでミク様が滞在の間、出来る限り心地良く過ごせる様努めさせて頂きます」
返事になっている様な、なっていない様な。若干噛み合ってない気がするが。
取り合えず俺に何かを押し付ける訳ではない、という意思表示だろうか。
「だがそれだと、お前だけの話に思うがな。他の連中には関係無いだろう」
「いいえ。ミク様の行いにより命拾いした者が数多く居りますし、私と同様に仇を討って下さった事を感謝している者も多数います。命拾いした者は少々その自覚が足りませんが」
言われてみればそうか。アレだけでかい組織で、貴族まで狙う組織だ。
となれば被害に遭った人間は数知れず、そしてその後も死ぬ可能性が有った人間も居る。
それが解っていても手が出せなかったのは、やはりメラネアの存在が大きいんだろう。
精霊付きという化け物を手に入れた事によって、露骨に強気で動き始めた。
きっとその行動は粗が有ったはずだ。それでも化け物が居る故に下手に手は出せない。
悔しかっただろうな。犯人が解り切っているのに、そいつを咎められない状況は。
「基本的にそういった、自覚の足りない能天気共は問題ありませんが」
さっきからちょくちょく感じていたが、コイツ結構毒を吐くな。
余程腹に据えかねていた想いがある、と思えばおかしくは無いか?
「問題は、陛下に付いて来なかった者達です」
「国王に・・・ああ、そういう事か。今立場が危うい訳だ。俺のせいで。はっ」
「はい、愚かしい事です」
つまり俺が大貴族を殺した事でパワーバランスが崩れている訳だ。
王国で一強として君臨していた男が死に、奴の派閥が瓦解したんだな。
命惜しさについていたのか、本心から恭順していたのか、その辺りは解らない。
どちらにせよ国王に逆らう派閥に付き、そしてその派閥に力が無くなった。
ただ貴族家当主が死んだだけなら、恐らくはそこまで派閥の力関係は変わらない。
当主が死んだ所で、次の当主が家を継げばいいだけだからな。本来なら。
だが違法な手段で派閥を維持しており、しかもその証拠が表に出てしまえば。
家その物が無くなるだろう。となれば一番上の存在が消えてしまう。
普通なら別の者がトップに就くのだろうが、奴の後釜など出来はすまい。
同じ様にやるなら同じ様に暗殺組織が居る。また国全体に巣食う程の組織がな。
そしてどうしようもなくなった奴らは、この国で肩身の狭い思いをしている事だろう。
「俺に恨みを持ち、恨みを晴らそうと考える奴が居るか」
「既に行動に出た者が一人捕らえられました」
「・・・早くないか?」
「余りの愚かさに報告を二度聞き致しましたので、その疑問は正しい事かと。この様な下らない事に力を注がず、折角拾った命で働けば良いものを。余りに愚か過ぎます」
別に俺が何かしなくても勝手に自滅していきそうだな。
俺が関われてないから若干詰まらんが。でも国王は頭を悩ませそうだな。
暫く滞在する事で、崩れたパワーバランスがまた崩れそうだし。
問題はその割を食う平民なんだが・・・それは俺の考える事じゃないか。
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