【038】哲学者と天文学者と詩人とぬいぐるみ

 時は紀元前1000年くらい、かもしれないしもっと後かもしれない。

 ある建物の屋上で、以下の者が談義を繰り広げている。

 

 一人は一つの議題に対し、とかく多角的かつ深淵な思考を展開しようとする哲学者。

 一人は一つの議題ごとに空を見上げ、星の位置を見定め、行き当たった星との位置関係及び星座及び流れ星の周期及び(以下略)から解決しようとする天文学者。

 一人は一つの議題を初めから終わりまであまねく韻律に乗せて語り直そうとする詩人。

 もう一人……人間の基準で語って失礼、もう一者は彼らを冷静に観察し、冷徹な指摘(という名のツッコミ)を入れていく、慧眼にして明晰な頭脳を持つ——くま——のぬいぐるみ。


 ぬいぐるみがなぜ喋るのか。

 クマ曰く、人間が人語しか解さぬだけであろう、と。


 ともかく四者が話し続けているだけの物語なのに、読むのがこんなにも止まらない。

 雑学から専門的な話題までの豊富な知識を得られるだけでなく、実にテンポが良い。そして考えさせられる。哲学者がいるだけが理由ではなく、各人の台詞が意義深いのである。


 ぬいぐるみのツッコミ——もとい指摘に注意しつつ読めば読者の洞察力も高まる事請け合い。読むべき一作。

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