第47話 イカサマ上等!

とまぁ、嫌いな人間を観察する趣味はないので、俺は美夜の方へと視線を戻す。


彼女が鞄から取り出してきたのは、ビニール袋だ。


「くじなんだけど、実はさっき作っておいたんだよねぇ。男子用と女子用」

「うわ、美夜ってば用意周到!」

「まぁね、図書館にいたら暇だったから」


なんて彼女は笑顔を見せているが、すべては言い訳だ。


中のくじは、さきほど美夜と二人、別棟でせっせとこしらえたものである。ちなみに外袋は、彼女のかばんにやまほど入っていた。


こういったものを捨てられない性格らしく、折りたたんだものを大量に持ち歩いているのだそう。


「とにかく、みんな一人一人、これ引いていってよ。結果に文句言うのはなしね」


美夜は袋の頭を縛ると、中身を振って混ぜながら、黒板の前まで出ていく。

教卓の上で袋を開けると、男女ともに次々と群がり始めた。


それを委員長の大内さんと、美夜が整理する。


彼女はクラスメイトの輪の中心で、いかにも公明正大なクラスの中心人物として振る舞っていた。


けれど、心の内側では悪い笑みでほくそ笑んでいるに違いなかった。

例えるならば、違法カジノのディーラーのごとく。どうやったって勝ちのないゲームを彼女は展開しているのだから。


「あぁ、いいくじ引きたいっ! 細川さんと同じ班に!」

「いいや、それは僕が貰い受ける! 僕が先に引く!」


クラスメイトたちは唯一の大当たりを求め、我先にくじを引かんとする。

が、彼らにとっては残念な事実を俺は知っていた。


あれに最初から、当たりなど入っていないのだ。


なぜかといえば、くじ引きをする前から抜いてあるからだ。『10番』と書かれたくじは、俺と美夜が持っている。


一人人数の多い女子には、もう一枚『10番』の紙があるが……


男子は、俺がポケットに隠し持っている一枚だけが、当たりくじとなっていた。

つまり、どれだけ盛り上がろうとそこには虚無しかない。夏祭りのくじ引き屋台も顔真っ青の、出来レースなのだ。


班決めをくじ引きにしたうえ、イカサマをして同じ班になる。


これこそ俺が立て、美夜が今実施している作戦だった。

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