11-2 六層無安

日時

【四月二十六日 日曜日 十六時七分】

場所

【社本部】

人物

【不明】


 香の匂いが立ちこめる堂に一人、着物姿の老婆が座っている。

 正座のまま目を瞑り、微動だにしないその姿はそういった形の人形のようですらある。

 そこに擦るような足音が近付き、襖を開けた。


「二度寝は失敗しました。」


 声の主は初老の男性。縁の太いべっこうの眼鏡をかけている。

 褐色の作務衣に身を包んだその姿はどことなく職人を思わせた。


「そか。」


 老婆がするりと立ち上がる。


「烏、呼び。」

「既に八咫烏には招集をかけています。半時程で主部隊は現地に到着するかと。」


 足音すら立てず、老婆は滑るように歩く。


「お鏡は?」

「浄化は準備を進めている段階です。四半時ほどかかるかと。」


 庭園を臨む廊下を男は老婆に続く。


「日夕は子守里ちゃんやったか。可哀想な事になったなぁ。」

「目覚めは日の本でも三本の指に入る危険な覚醒体。一度暴れれば犠牲は仕方ありません。情報によれば、夕鶏が目覚めを目的とした襲撃をしたと。」

「皮肉なこと。あれらは元々、鶏が嫌いやったから逃げ出したんよ。」

「そうでしたね。」

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