49話 剣 VS 銃
30日、13区サロンティアにウィーブは仕事帰りにフルミの護衛として一緒に帰っていた。
酒場通りを抜けて辺りは静かさが包んでいた。
聞こえるのは風とどこから鳴く虫の声だけだった。
等間隔で並ぶ街灯が無ければ真っ暗で何も見えないだろう。
ウィーブとフルミの間には壊滅的に会話がなかった。しかしどちらも気まずさを感じていずフルミは一刻も帰り息子に会うことばかり考えていた。
ウィーブは辺りを警戒していた。
「……」「……」
住宅街の路地、その曲がり角の通路から一人の女性が足音なく歩いていた。
帽子を深く被っているので顔は全く見えないが長い金色の髪の毛から女性を思わせた。
その女性はこちらに向かって一歩、一歩と足を向ける。
ウィーブは立ち止まる。
腰につけた剣の鞘を触る。
なぜウィーブが鞘を触ったのか。
それはその女性の異常な手であった。
両手で手の形も色も違うのだ。
ウィーブは黙ってフルミの前に移動する
その女性は立ち止まる。
街灯で照らされた顔は異形であった。
「え、なにあれ」
フルミは口に手を当てて後ろに下がる。
すると女性……ガールボーイはスーツの後ろから魔力銃を取り出してすぐに発砲する。
サウンド・サプレッサーがついているので音はなかった。
カキンッ!
まるでバットにボールが当たったように綺麗な音が鳴る。
ウィーブは鞘から剣を抜き両手で持って弾を防いだ。衝撃で三歩下がる。
「お前らムシノスローンの奴らだろ?」
弾は地面に落ちる。
ウィーブは弾を見る。
「……フルミ逃げろ。今すぐ」
ウィーブがガールボーイから目を逸らさずに言った。
「に、逃げろって私は一刻も早く息子のところに帰りたいんです!襲われてるかも知れない!」
フルミはなんとガールボーイの所に走ろうとしたのだ。
「ッ!馬鹿か」
ガールボーイはそこを見逃さずにフルミに銃口を向けて弾を撃ち込む。
「ひっ!」
フルミは尻餅をつく。
ウィーブは今度は片手で剣を持ち飛んできた弾をフルミから守る。
ウィーブの手首から腕にかけて衝撃が内部から響く。骨が少し揺れる。
「……厄介な女だ。俺が合図したら家まで走れ。その間に殺されても俺は知らない」
「わ、分かった」
フルミは立ち上がって走り出すポーズをする。
「……今だ!」
ガールボーイが少し左に動いた瞬間にウィーブは自分が持っていた剣を思いっきり投げる。
剣は回転してガールボーイに向かってくる。
その瞬間にフルミとウィーブは走り出した。
フルミは全身に
ウィーブは両足のみに
集点したウィーブの方が走力は上だった。
ガールボーイが間一髪で剣を避けるとすでにウィーブはガールボーイに拳が届く距離まで近づいていた。
剣は街灯に刺さり街灯が少し傾く。
ガールボーイは反射的にウィーブに銃口を向けるがウィーブの拳が銃を持ったガールボーイの上腕にアッパーを喰らわせた。
全身にすでに
アッパーを喰らった腕は衝撃で上を向いた。
ガラ空きになった脇腹にすぐさまウィーブの拳が飛んでくる。
ガールボーイは脇腹に集点する。
しかしそれを読んでいたウィーブは拳を止めて腹部に蹴りを入れる。
集点をしてしまった為、他の箇所の
「ぐ、ガハッ!」
ガールボーイがウィーブから視線を外した隙にウィーブは街灯に刺さった剣を引き抜いてすぐさまうずくまっているガールボーイの背中に一閃を喰らわす。
しかしすぐにウィーブは痛みで動きが止まる。
足の甲に一撃、弾がめり込んでいたのだ。
「油断しすぎなんじゃなーい?」
先ほどとは声の高さが違っているのにウィーブは少し驚く。
ガールボーイはうずくまった姿勢のままウィーブにタックルをした。
前胸部にガールボーイの肩が入ってウィーブは飛ばされる。
またガールボーイとウィーブは距離をとって互いを見ていた。
「もう!レディのお腹を蹴るなんて紳士じゃないのね?」
ガールボーイはお腹をさすりながら言った。
ウィーブは黙ったまま足の甲に入っている弾を抜き出す。
……さっきの弾と大きさが違うな。フルミに撃ち込んだ弾はどれも太かったのに対してこれは通常サイズだ。
ガールボーイは剣を捨てて突進してきたウィーブを警戒していた。
剣VS銃だからリーチを取れば私の勝ち──なんて甘い考えね。
リーチを詰めるために彼は自分の武器すら投げ捨てる。
ウィーブは剣を構える。
サプレッサーがついているが俺が弾を避けられないなんて事は無かった。
あの魔力銃は弾薬式の32口径。
……がその分、素早い。しかし俺は12口径までなら避けれる。
ウィーブは思考をやめて迫ったきた弾を避ける。
……が完全には避けれず弾はウィーブの肩をかすめる。
「考え事かしら?
……
先に切れた方が負けなのさ。
なのにこいつはずっと
………そろそろ殺すか。
ウィーブは
32口径弾薬式魔力銃は最大六発。
今、四使ってる。残り二だ。
ウィーブはそのまま直線に走り出した。
ガールボーイは笑いながら二発、銃弾を撃ち込む。
ウィーブの額と肩に当たるが少し血が出るぐらいのダメージだった。
ウィーブは少し立ち止まって今度は横向きに剣を投げる。
剣は低空飛行でガールボーイの足元を狙う。
弾はゼロ。装填するのに速くても五秒。
この剣は跳んで避けるしかない。
ガールボーイはウィーブの読みどおり跳んで剣を避ける。剣は再び街灯を切り裂く。
しかしウィーブの読みと違う所が一つ。
それはガールボーイがもう一丁、魔力銃を隠し持っていた事だ。
……!あれは32じゃない!なんだ?
「貫通しな!"
Ms.ガールボーイ
【
能力名 "
弾を速くする。
まずい!※
※放点とは
鋭いドリル状の弾薬がとてつもない速さで風を生む。
ウィーブは弾を目を逸らさずにどこに飛んでくるか見ていた。
額に一発か。※
※重点とは、放点をした状態で集点をすること。
「やったわ!額に一発ドンピシャ……?」
ウィーブは額についた血を拭いながら何も言わずにまたガールボーイとの距離を縮めてくる。
「は?……なぜ?まあいいわ。もう一発」
ガールボーイが銃口を向けた瞬間、ガールボーイの隣にあった街灯が音を立てて倒れる。
「……俺が剣を投げて切っといたからな」
ガールボーイは銃口を上に向けて街灯に一発、撃ち込む。しかしそれが命取りになった。
「保身に走ったな?それがお前の過ちだ」
ウィーブの拳に
「や、やめ」
ガールボーイはまたガラ空きになった脇腹に集点した。
「無駄だ。こっちは重点だからな」
ウィーブの拳がガールボーイの脇腹にめり込む。
骨が砕かれる音がしてとてつもない衝撃が襲いかかる。
勢いは止まらずコンクリートの壁にガールボーイは背中からぶつかる。
そして同時に街灯が音を立て倒れる。
ガールボーイは気を失い倒れ込む。
ウィーブは自分の剣を拾い上げてついでにガールボーイの銃も手に持った。
足の甲に傷があるが
ウィーブは自分が喰らった傷を確かめ始める。
……あ、フルミは
「まあどうでもいいか」
ウィーブはその場で数分間、立ち続けた。
数分後、刺客は一人だけと分かって気絶したガールボーイを引きずりながらムシノスローンに戻って行った。
ガールボーイとウィーブの戦いは10分にも満たない速さで終わりを告げた。
街灯が倒れ込む音でようやく何があったか住民は気づいたが誰も窓を開けようとはしなかった。
関わり合わない事こそが自分にとって一番、安全だと知っているからだ。
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