第9話 固有魔法

ースタンド席ー


セレナを入場口まで送り届けた悠馬は急いでスタンド席へ戻ると茜を見つけ出し、茜の所に行き声をかけた。


「戻ってきたぞー」


「あ、悠馬、まずは一回戦突破おめでとう!…で、何でこんなに遅かったわけ⁇」


「あー…それは…」


悠馬が茜に迷っていたセレナに出会った事、一緒に入場口までついて行った事を話すと


「…悠馬ってお人好しだよね」


と呆れる茜に「別にいいだろ⁉︎」と反論する悠馬。

沈黙が流れる。


「「…せっかくだからセレナさんを応援しない?」」


2人の声が重なる。

2人は驚いた顔で数秒見つめあった後クスクスと笑い、試合の観戦を始めた。




一回戦第四試合開始から、10分後。




セレナは迫り来る木剣を迎撃し続けていた。


「魔力障壁っ…ウィンド!、フレイムッ!」


壁に阻まれ、魔法で剣を破壊されて、天馬の攻撃はセレナには届かない。

しかし、セレナの顔に余裕は無かった、いくら木剣を破壊しても次の瞬間には天馬が新たな剣をからだ。


(多分緋村君の固有魔法は、「剣を創り出しそれを自由に操る能力」といった所かしら…。くっ…‼︎このままじゃジリ貧ね…もう、を使うしか…)


その時、天馬が動いた。

木剣を片手にセレナとの距離を詰めると同時に木剣を飛ばし、セレナの前後左右全てから攻撃を加えようとする。

回避は不可能、たとえ飛んできた剣を防いでも天馬自身の攻撃をくらってしまう。

詰みだ、とスタンド席のほぼ全員がそう感じ、セレナでさえそう感じただろう…とっておき《固有魔法》さえなければ。


(範囲は私を中心に半径15m、時間は20秒…!)


「秒針よ!──止まりなさい‼︎」


世界が灰色に染まる。

その世界ではセレナへと迫っていた木剣も、天馬も止まっていた。

その中でただ1人、セレナはゆっくりと歩き出し天馬の目の前で止まる。

そして、今も剣を振り上げた体勢で固まっている天馬に手を向けると魔法の合成を始めた。


(あと10秒…十分ね)


「フレアストーム」


風と火の合成魔法、セレナによって殺してしまわない程度に威力を抑えられた熱風が天馬に襲い掛かる…筈が放たれた魔法もその場で停止した。


(4…3…2…1…今!)


セレナが大きく後ろに跳ぶと同時にモノクロの世界に色彩が取り戻される。

天馬の一撃は空振りに終わり飛ばした剣もセレナを捉える事は無く、逆に合成魔法「フレアストーム」が天馬を捉え、大きく吹き飛ばされる天馬。


「…今、何をした…?」


合成魔法を受けふらつきながらも立ち上がった天馬はセレナに何をした、と問う

それに対しセレナは「別になんでもいいでしょう?」と答えを返す事は無かった。

丁度その頃、解説席では天馬の固有魔法?とセレナの謎の攻撃についての考察が行われていた。


《「緋村君のアレは十中八九固有魔法でしょうね…」


「そうですね、おそらく魔力を消費して剣を創り出しそれを操る感じの能力ではないでしょうか?もっとも、剣だけしか創れないかは分かりませんが」


「遥先輩の固有魔法と結構相性いいんじゃないですか?国一つくらいなら滅ぼせそうですけど」


「素体をいくつも持たなくてもを無制限に撃てるのは確かに強そうですね。」


「では次はセレナさんの謎の攻撃についてですが、正直検討がつきません…」


「緋村君の攻撃は外れ、セレナさんの魔法が緋村君に当たった。しかもセレナさんは瞬間移動じみた回避をしていましたし、となると…うーん、正直に言うと時間を止めていた、としか思えません…」


「じ、時間停止ですか…」》


ほとんどの生徒達がまだその意味を飲み込めていない中、その言葉に騒がしくなったのは大人達であった。


「時間停止…もしそれが本当だとすれば重大事だぞ…」


「将来『剣聖』や『怪物行列モンスターパレード』に並ぶ我が国の最高戦力となるかもしれんのう…」


試合の様相は最初とは大きく変わっていた。

天馬が果敢に攻撃を仕掛けるも、文字通りをするセレナに攻撃が当たるわけがなく逆にセレナの魔法をくらうという構図が何度も繰り返される。


(いける…っ!)


向かって来る剣の時を止める、止める、止める。 

しかし──『時間を止める』という強力すぎる魔法が、何の代償も無く使用できる訳が無かった。


「え…?」


セレナが反撃の魔法を放とうとして、膝から崩れ落ちる。


(まさか…魔力切れマインドダウン⁇)


魔力切れマインドダウン、魔法の使いすぎによって引き起こされる弱化現象デバフ

魔力切れを起こすと魔法が行使出来なくなるだけでなく身体能力も低下してしまう。


(残りの魔力量を見誤った…っ)


そして追い討ちをかける様にセレナの身体に激痛が走った。

時間停止、力の代償が魔力切れ下のセレナへと返ってきたのだ。

痛みと脱力感に耐えセレナは立ち上がようとするが、既にセレナの身体は限界を迎えていた。


(ごめんなさい…私は…もう……)


そしてセレナは意識を手放した。

スタンド席中が、解説席が、そして天馬でさえ何も言葉を発する事が出来なかった。


《「…試合終了、セレナさんの戦闘継続不能により勝者、緋村天馬…」


「なんというか…壮絶な戦いでしたね…」

「そうですね、時間停止という強大な力を持つセレナさんに注目が行きがちですがセレナさんの攻撃を耐え切った緋村君もとても凄いと私は思います。遥さんはどう思いますか?」


「ええ…こんなことを言うのはあまりよく無いのですが…きっと緋村君は決勝に上がって来ると私は思います。」


「では次の試合は…」》


天馬はこの後も難なく勝ち進み決勝へと駒を進めた。

そして危なっかしい所がありながらも勝ち進んでいった悠馬もまた…決勝へと進むのだった。











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ミネ高にはロドニア王国の16〜18歳のほぼ全員が通うのでトーナメントしたら物凄い試合数になるのでは…(遅い)ということで申し訳ないのですがカットさせていただきます…


第一回戦第1400試合とかありそう(笑)


ちなみに特に出番の無かった茜ちゃんは3回戦で負けてます。彼女も十分強いです。

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無能少年の英雄譚 きなこもち @Kinako_Moti_A

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