第11話 ソフィアの宿と副業

 何故か俺は自分の部屋以外の部屋にもクリーンをかけている。隣のアイリーは浄化をかけている。


 実は、昼間は全部屋空室の状況。ソフィアの宿は、全部屋で20ある。割と大きい冒険者ご用達の宿なのだという。


 ギルドのファリナもいい宿を紹介してくれたものだ。


 次回、お礼を言おうかと思ったら、ソフィアの娘らしい。どちらも商売上手なわけだ。


「今の間にクリーンと浄化をかけてくれたら、さらに10日、無料で泊めてあげる」

「やらせていただきます」


 ソフィアとアイリーの会話だ。何故か意気投合した。そのため、全部屋お掃除中というわけだ。ソフィアも立ち会ったまま、「他の日にもスキルを使ってくれるたびに宿泊延長、かつ、冒険者としての情報も教えてあげるわ」といわれ、つられた俺たち。永久就職も視野に入れておこう。


 俺は、食事と性交の関係について、アイリー経由で尋ねてもらった。


「あら、見たところ成人したばかりのようだけど、村で教えてもらえなかったの?」

「ええ、教えてもらう前に、魔獣と強盗団にヤラレテしまったのです」


「ああ、北の村ね、可哀そうに。でも生きていて良かったわね」

「はい」


「良かったら、母だと思って甘えていいのよ」


 などと云われ、アイリーにもつられたこともあり、俺もうれし泣きをしてしまった。


 ソフィアは昼間が暇なのか、丁寧に教えてくれた。


 ます、食事は子どもや老人、性交相手がいなければ普通に食べる。村などは、家族で移住するので畑は基本無い。狩りで食料到達する。当然、15歳までは普通の食事をとる。


 15歳になり成人すると、性交システム(勝手にソフィアが命名したらしい)というものが働き、食事をしなくてもHP維持管理ができるのだという。


 ちなみに、手つなぎ、キスでも維持できるらしい。


 は?


 ドキドキすればOKなのだという。然し更に裸で抱き合ったり、それこそ本番行為をしたりでエクスタシーを感じれば高配当があるという。アイリーはそこを詳しく、と尋ねた。


「例えば、キスでの粘液交換はポイント高、お互いの汗をなめ合ってもいい。さらに体液を飲むと最高得点だという、互いの性器を愛撫するのよ、やり方はわかる?」


 俺は苦笑いで肯く。彼女も知っていますと答えていた。やり方次第で高得点つまりHPの分母を引き上げられるのだという。食事や回復ヒールは分子なのだという。アイリーがうっかり回復ヒールを俺が使えると漏らしてしまった。


 ソフィアが、冒険者たちを回復ヒールしてあげれば、がっぽり稼げるわよ。私が客引きとマネージャーをしてあげようか、取り分は私が2割の2000G、あなたたちが8割、8000Gでいいわ。という。


 冒険者たちの夕食時間の後、回復の儀をすることになった。


 おそらく、喋れない俺。目の見えないアイリーに同情して稼ぐ方法を教えてくれているのだと思う。


 ありがたく提案に乗ることにした。


 ただし、回復ヒールがスキルレベルⅠなので、最低限の怪我しか治せないことをアイリーに伝えてもらったが、その最低限の怪我すら治す金がないのが冒険者なのだという。


 世知辛い。


 一度の回復で、治る、治らないにかかわらず一律、銀貨1枚でソフィアが冒険者には説明するという。ありがたいです。


 俺たちにとって、銀貨3枚分で実質11日滞在日数が伸びるのだ。つまり11日間で3~4人の客がいれば、泊まり放題。


 金のやり取り、宿の滞在日数の交渉はアイリーに任せた。俺はただ回復ヒールを使って、スキルレベルが上がるか実証したい。これはウィンウィンじゃないかな。


 ソフィアがいるうちに色々と疑問を解消しておきたい。冒険者のレベルやスキルについて教えてもらった。スキルは基本的には口外しないわね。まあ、今回みたいに私がバックについていれば面倒ごとは避けられるけど、とソフィアは笑う。浄化やクリーン、回復はソフィアの業界にとっては引っ張りだこなのだという。宿屋を商売にしてもいいな。


 レベルは、村人の大人たちが、だいたい5~10で狩りはできるレベル。子どもは1とか2が普通らしい。なるほど。冒険者になるとレベル10もあれば、生活に困らないほどは稼げるが、ケガをしたら終わり。社会保障のない世界。実質本当に終わる。


 実際にのんびりと安全に稼ぐなら、レベル30くらいは欲しいわね、とソフィアが言う。ただし、冒険者は馬鹿だから、レベルが上がれば、さらに危険度の高いダンジョンや魔獣を狙うので、いつも死と隣り合わせのようだ。それはわかる気がする。


 なので、どれほど強くなっても、死ねばゲームオーバー。レベルを上げるより、スキルを使って一生暮らせる方法を探すのが賢い人間のすることよ、と云われてしまった。ただし、レベルが低いと、先日の村のように、全滅してしまうのよねえ。とソフィアが寂しそうに云った。結局、自分と大事な人の身を守れるレベルは必要だそうだ。


 ちなみに強盗団のレベルを尋ねると、30前後くらいかしらね。冒険者としてやっていけばいいのに、ヒトから奪うことでレベルを上げられることを知ると、魔獣よりも弱い人間を狙うのよ。まあ、強盗団も色々で、街の娼館に金を落としてくれる奴もいて、まともな奴もいなくはないけど、基本、出会ったら殺すか、逃げるか、殺されるか。覚悟を決めて対峙しなさい。奴らは厄災と一緒よ。とソフィアはそう話した。


 異世界二日目にして、ハードな世界のリアルな話を聴けて良かった。人を殺す覚悟も持ち合わせておく必要がある。


 その後、部屋で、アイリーと話をしていると、ソフィアに呼ばれた。四組のパーティなのだろうか。どれもこれも酷い怪我だ。


 一人目は、足の骨が見えている。回復ヒールをかけると、止血はできたが、骨は見えたままだ。俺が申し訳なくしていると、止血できただけでも死ぬ可能性は0になったとメンバーは喜んでいた。そういうものなのか。


 次の女性は、左腕を魔獣に噛まれたような跡、アイリーに鑑定して貰うと、毒を食らっている。回復ヒールには解毒効果もあるらしい。キュアとかの魔法があるのだろうか、試しに、回復キュアと念じてみると、解毒できた。おお。その後、アイリーが浄化、俺がクリーンで服ごと毒紛を取り除き、回復ヒールをかけると、すっかり顔色が良くなった。うん。俺も嬉しい。


 三人目は、膝の皿にひびが入ったような感じだ。これは治せるだろうか。回復ヒールをかけて、骨がくっつくまで小枝と包帯をグルグル巻きにして固定した。ヒビだけなら時間はかかるが自然回復するようだ。クリーンで傷口周りの汚れも取れた。アイリーの浄化で血痕もなくなった。本人も納得顔だ。


 四人目は、両足が腫れている。毒かな。と思ってアイリーに鑑定して貰うと毒だった。どうやら、毒蛇が森にいるらしい。回復キュアで解毒して、回復ヒールをすると、両足の毒々しい色が消え、すっかり元通りになった。凄いぞ。本人も相当嬉しそうにしていた。

 俺も嬉しい。なんだか、人の役に立てて異世界もいいものだと、この日は思っていた。


 善意はこちらが身を乗り出さなければ見つからないが、悪意は向こうからやって来る。


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