最期の時まで、君のそばにいたいから
雨ノ川からもも
***
ある日の会話
「――死にたい気持ちを消すには、どうしたらいい?」
隣から聞こえてきた思わぬ質問に、ニンジンを切る手が止まる。危うく指まで切るところだった。
突然何を言い出すんだ、この子は。
今日だけじゃない。たまに、歳のわりにえらくませた質問や発言をするときがあるから、戸惑ってしまう。
「えっ……?」
驚いて聞き返すと、傍らに立つ少年は「コウタがね……」と沈んだ声で切り出した。
「泣いてたんだ。あいつ、いつもうるさいのに、今日は朝からなんか元気なくてさ。訊いちゃいけなかったのかもしれないけど、ほっといたらどんどん落ち込んでいっちゃう気がして。我慢できずに、昼休みに『どうしたの?』って声かけたら、それで泣いちゃって」
コウタとは、普段からちょくちょく話題にのぼるクラスメイトだ。我が家にも何度か遊びに来たことがあるけれど、明るく活発な男の子で、たしかに泣き顔を想像できない。
「ちっちゃい頃からずっと一緒だった猫が、死んじゃったんだって。その猫、ちくわって名前らしいんだけど、『ちくわがいない毎日なんて耐えられない。俺も死にたい』って言ってて……」
失礼かもしれないが、自殺願望のきっかけが案外
悲しみの大きさは、人生の長さや場数には比例しない。するとしたら、悲しみをもたらした事柄そのものに対してだ。
「僕だっていろいろ思うことはあったよ? 『そんなこと言っちゃダメだよ』とか『そんなことしたってちくわは喜ばないよ』って言ってあげたかった。でも、どれも違う気がして」
綺麗事嫌いはあの人――彼の血かしら、と悠長に考えている横で、少年は剥き終えた玉ねぎをこちらに寄越すと、真剣な表情で問うてくる。
「ねぇ、僕はどうすればよかったのかな……」
目が潤んで見えるのは、玉ねぎを剥いていたせいだろうか。縋るような瞳で見つめられ、なんと答えるべきか悩んでしまう。
「うーん、そうねぇ……」
返答を待つ少年の眼差しが、彼のそれによく似ていて、遠い昔を思い出した。
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