第45話 ~眼鏡を外す時~

 軍の総帥である、祖父のロド。

 城を与えられた理由も納得だ。

 

「ああ、そうだったか……でお呼びした方がいいかな? お嬢さん?」


「ライリーで構いません」


「元の……えっ!?」


 2人の会話に、動揺を隠せないクガイがこちらを見る。


 この男が、私の正体を知っている事に驚きは無い。物理的な根拠からではなく、直感的にそれが分かった。


 『よそ者同士』通ずる何かが、全身を貫いたのだ。


 (彼の話を聞きたいけれど『今は違う』わね……)


 

「まあ細かい話は後で。とりあえずはクガイ……久方振りの手合わせだ!」


「ハイッ!」


 ロドの誘いに、クガイがキュッと口を結ぶ。

 私にまで緊張が伝わった――。





 (まさしく道場って感じ……ていうか正座なんて、異世界ここに来て初めてだわ)


 顔が映る程に磨かれた板張りの床。

 その広い部屋の両端に、私と道着姿の男性数十名が正座で並んでいた。


 中央には互いに木刀を構える、祖父と使用人。


 そう……クガイは既に眼鏡を外している。

 でもってやはりその素顔は、まごうことなき美青年だった――。


 (想像を遥かに越えてきた……それにしても、最初から『時間魔法』を使うつもり?)


 クガイは魔法の力により、眼鏡を外すと周囲のスピードが遅く見える為、戦いにおいては非常に有利となる。

 しかし『元が誰よりも強い剣士で、魔法は寧ろ邪魔だという理由から、眼鏡を外すことはない』そうユーセやネムより聞いていた私は、息を飲んだ。


 (そこまでしなければ戦えない相手なのね……これは見物だわ!)


 張り詰めた空気から一変、合図も無しに試合か開始される。



 そして約10分後――。

 激しい打ち合いの末、ロドの勝利で練習試合は終了した。


「……」


 (言葉が出ない)


 あまりのスピードに殆ど見えなかったものの、私の祖父と使用人は最強の剣士だという、事実確認はできた。


 鍛え上げられた兵士達(弟子?)の反応を見ても、私と変わらない。


 知っていたとはいえ、改めてクガイの剣術や実力に驚かされたが、ロドはそれ以上だった。魔法の力で敵(クガイ)に動きを読まれているにも関わらず、彼は難なく攻撃をかわしていた。


『上手い! 速い! そして強い! あんなの、初めてだわ!』



「ライリー様、総帥のが終わりました」


 興奮が収まらない状態で私は弟子の1人に、大広間へと案内された――。


 


「それでは聞こう……異世界から来たお嬢さんが、私に何用だ?」


 軍服に着替えたロドが胡座をかく。

 胸には略綬りゃくじゅ(勲章メダル)が幾つもぶら下がっていた。


 そんな彼に対し、私とクガイは畳の上でこれでもかと背筋を伸ばす。

 正座続きのふくらはぎが悲鳴を上げているが、あの試合を見せられては、文句の一つも言えない。


「……実は急ぎ、剣術や護身術を学びたいのです」


 私は……つまりはロドの息子を思い浮かべた後『動機、経緯、目的』を詳細に話した。



「……そうか、事情は承知した。ならは私が稽古をつけてやろう! 明日の朝5時からだ」


「はっ?」


「すまないが、昨夜に王城から呼び出しがあってな……今日は何も教えられない」


 (だから、そうじゃない……)


「いえ、あのっ! ご説明をした通り、そこまでの強さは望んでおりません。いざという時の為になので、クガイや兵士から軽く教えてもらえればそれで……」


「『軽く』だと? キュラス家の人間が剣術を習得するのに、半端な強さでは恥となる。明日から毎日城へ来い! これは命令だ」


「……」


 残りの冬休みに、また新たな地獄が加わった――。

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