第二章 罪深き学園の過去と魔法研究クラブ

第13話 ~再会~

 休日明けの早朝――復学初日。


 ライトブラウンの制服に同系色のポンチョコートを羽織った私は、校門の前で佇んでいた。


「……」


 膝下10センチのふんわりスカートが、やや冷たい北風になびく――。


「……」


 貴族専門だと聞いていた学び舎まなびやは、防壁の無い開かれたで、想像よりもだいぶ地味に感じた。


「……」


 (いやいやいや、そんなことはどーでもいいっっ!)


 今さっき受けた『絶望』を、もう一度確認する。



『モスカトア国立第一学院』



「女学院て……王子いないやん!」


 エセ関西弁が出る程の衝撃――。

 私が通う学校は『女子校』だったのだ。


 騙され……てはいないが、そんな気分の私は馬車へ引き返した。



「本当に、を過ごすところだったわ! ヤプ、帰るよ!」


「『帰る?』何を言っているんだ? さっさと行け! 見送りまでが御者の仕事なんだ。俺こそ早く帰りたいんだよ!」


 御者席で手綱を握ったままのヤプが、冷たくいい放つ。


「だって、女子校なのよ!?」


「特に問題は無い。むしろ好都合だろ?」


「何で? 意味が分からない」


迄に、ターゲットに見合う令嬢になるんだ! 現段階ではまた『マイナス』が増えるだけだしな」


「練習をして上手く演技はするし『イベント(舞踏会?)』なんか待っているより、直接会いに行った方が早いじゃない!」


「お前なぁー、相手は『国王の息子』だぞ? 一般市民じゃあるまいし、そう簡単に謁見えっけんができると思うなよ? 伯爵令嬢どころか侯爵令嬢ですら、個人的な付き合いは不可能だ」


「嘘……」


 (顔を合わせる事すら、自由に叶わないなんてっっ!)



「分かったら、しっかり学んでこい。の偵察も忘れるなよ?」


「……ハイ。行ってきます」


 別に言い負かされた訳ではない。

 どう考えても『レベル上げ』くらいしかが見つからなかった。

 ヤプ・ネムの言う通り強敵(ライバル)が存在する以上、今は修行を積んで戦いに備えるのが、一番効果的だと考えたのだ。


 (にしても、女子校かぁ……)


 とはいえ私は、ワクワクやドキドキが消え失せた学生生活を余儀なくされた――。


 



 (……久々だな、この)


 ヨーロッパの古城風とはいえ、学校独特の空気感は前世と同じだ。


 下駄箱の無い入り口からブーツのまま校内へ入った私は、石調の廊下を歩いて自分の教室を探す。



「『18ー4』……此処だ」 


 随所にある古びた案内板のおかげで、教室にはそれほど迷わずにたどり着いた。


 クラス表記も理解しやすく『18ー4』は、今年18才になる生徒達が集う、4クラス目という意味だ。

 

 クラス分けは年に1回。

 成績は関係なく、ランダムに抽選される。

 1クラス20名編成で、中でも私の学年は1番生徒数が多いと、前・ライリーが残した『メモ(最近見つけた)』に書いてあった。


 因みに、全生徒数は960名――。

 城を校舎へ※リノベするのも納得だ。



 (ひとまず座ろう)


 席は特に決まっていない。

 しかし時の経過に伴って、自然と自分の位置が定まるのは、異世界の学校でも『あるある』だ。


 2人用の机と椅子が並んだ教室。

 私は1番後ろの窓際に座った。


 このが意味するのは、カーストの頂点か? それとも!?


『……興味ねぇぇぇー!』


 些細な事を、気にしている時間はない。

 狭い教室での立ち位置や交友関係より、今は(王子)だ!


 ライバルであるフロレンヌ嬢と別クラス……そちらの方が、私にとって大問題だった。


 (無理に接近するのは、相手に警戒されるかも? ならばクラスの生徒や教師を介し、徐々に距離を縮めて……)



「ライリー?」



 朝からフル回転中の脳内に、少し驚きを含んだ女性の声が響く。


「……!」


 顔を上げた先には、1人の生徒が居た。


 1つに束ねたオレンジブラウンの髪と、中身に、知的で大人びた印象の顔立ち。


 間違いない……彼女だ。


「おはよう、。久し振りね……元気だった?」


「貴女こそ、もう体は平気なの?」


「ええ。絶好調よ!」


「そう、良かった……」


 彼女は『アケビ・モンドリリー』侯爵令嬢。

 前・ライリー・キュラスの親友だ――。



 ※リノベとは、リノベーション(建築物改修)の略

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