第59話 農作物を荒らす影トカゲ
このスパルティアにも、王国にあった冒険者組合のような組織がある。
特に魔物の討伐を専門的に扱っており、仕事はまさに幾らでもあった。
建物の中は簡素ながら、多くの冒険者がいて賑わっている。
しかも、どの冒険者も腕に覚えがありそうな様子だ。
恐らくオセロット・コロシアムの参加者も多いのだろう。
アレクシアは結局、討伐の為にバトルドレスを着ることになった。
なので、少しばかりため息を付いていた。
似合ってはいるのだが、やはり目立つ。
スパルティアの周囲、特に魔窟に近づけば近づくほど魔物が多い。
スパルティアにまで攻め入ってくる魔物は国の戦士たちが討伐するのだが、その周囲までとなると戦士の数が足りない。
そこで不足している部分を冒険者との協力で埋めている。
報酬そのものは他の国とそう違いは無いのだが、数が稼げる。
素材の単価が良い魔物もそれなりに居て、魔石も採れる。
腕に覚えがあれば、ここで魔物狩りをするだけで一財産築けると言われている。
流石に主人は店があるので長居する気はないようだった。
ちなみに主人の居ない店は相変わらず従業員が回している。
最近は仕入れもやり始めたので、主人は安心して此処に来れた。
アズはエルザとアレクシアを引き連れて、依頼を眺める。
エルザから受けた教育で、文字の読み書きは出来るようになった。
書く方はまだ簡単な文字と名前くらいだが、依頼は既に一人で読めるようになった。
主人が喜ぶのは単価が良い魔物だが、あまり目的地が遠いとアレクシアが難色を示す。
うーん、とアズは頭を悩ませる。
「アズちゃん、これが良いんじゃない?」
エルザが示したのは、影トカゲの討伐だった。
作物を荒らす魔物で、スパルティアの周囲に生息している。
採れる素材も単価は低いが、肉も含めて買い取ってくれる部位は多い。
油で揚げると美味しいらしい。
「良いですね、生息エリアも今日行って帰ってこれる場所です」
「影トカゲね……、はぁ。昔を思い出すわ。うちの領地の作物も荒らされたものよ」
「じゃあ、その恨みもぶつけてしまいましょう」
そうして影トカゲの討伐に決まり、早速出発する。
影トカゲの生態は基本的に大きなトカゲなのだが、名前の通り影に潜り込む性質がある。
昼ならば隠れる場所も少なく、それなりの冒険者であれば注意すればそれほど危険ではない。
だが暗くなると一気に危険度が上がる。
あらゆる場所から奇襲されるようになるため、夜は生息地から離れることが推奨されている。
だがスパルティアの戦士は信じられないことに、成人の儀式として一人でこの影トカゲの生息地に数日泊まりこむらしい。
そこで死ぬならば、戦士としての未来はなかったという扱いだ。
まともに眠ることなく、いつ来るか分からない四方からの奇襲に対応し、影トカゲを倒してその肉を食らう。
アズにはとても真似できそうにない。
主人も多分許さないだろう。危なすぎる。
それほど時間をかけることなく、影トカゲの生息地である荒地に到着した。
普段はこの辺りで虫などを食べるか、近くの森で果実などを食べている。
そういった食料が少なくなると、農地などに来て作物を荒らす。
その為定期的に数を減らす事が大事だ、と紙には書かれていた。
アズが周囲を見渡すと、丁度岩陰に影トカゲの成体が影に潜るのが見えた。
潜った陰には変化がない。見ても分からないだろう。
「アレクシアさん、魔法で探知できますか?」
「出来るけど、必要ないわ。影トカゲにはこれが一番よ」
そう言って、アレクシアは指先に光の球体を生み出す。
照明の魔法だが、普段よりも照度が高い。
隣にいたエルザは昼間にも拘らず、眩しいっと目を手で塞いでしまった。
その光を、アレクシアは影トカゲが潜った陰に投げる。
すると影が見る見るうちに無くなり、影トカゲが堪らず陰から出てきたところをアレクシアは戦斧で頭を潰す。
見事な手際だった。討伐慣れしている。
アズが思わず拍手した。
「凄いです。ぱぱっと倒しましたね!」
アズの素直な賞賛にアレクシアはふふ、と鼻を高くした。
「この調子でいくわよ。幾ら倒したって絶滅しないんだから片っ端からいくわ」
そう言ってアレクシアはずんずん進む。
アズとエルザはそれを追いかける。
今までになく順調に討伐が進んだ。
影トカゲの一番の武器である影への潜伏が無効化されたとなれば、それは只のでかいトカゲだ。
アズは魔力も使わずに斬り倒し、エルザはメイスで頭を潰し、アレクシアは戦斧で倒す。
「私にもその魔法は使えますか?」
討伐も一区切りし休憩を挟む。
照明の魔法で周りを囲う事で、影トカゲが近寄らないようにした。
「あらアズ。気になるの?」
「はい、とても便利そうですし」
ふーん、とアレクシアは照明の魔法を見る。
アズの魔力は、最初に比べれば随分と増えた。
魔物狩りの恩恵もあるし、アズの持っている剣の力で魔力を消費するのでその影響もあり成長している。
今なら見習い魔導士位はあるだろう。
だが、アズには致命的に魔法を使う才能がないことはアレクシアには分かっていた。
封剣グルンガウスのような魔力を使う武具なら扱えるが、自分で魔法を生み出すには才能が要る。
戦士としての才能はアズにはあったが、魔導士としての適性はほぼない。
まだエルザの方がよほど見込みがある。
暫く言葉を考えたアレクシアは面倒になってきた。
「アズには無理。諦めなさい」
「そうですかぁ……」
アレクシアの言葉を聞いてしょぼんとしたアズを、エルザが目線を合わせて頭を撫でていた。
「もっと魔力があれば肉体強化系の魔法があるわ。それなら多分使えると思うから、それまで待ちなさい」
「分かりました」
アズはまた元気になった。
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