第35話 風の迷宮へ⑥

 次の日、アズ達は風の迷宮に潜る前に冒険者組合に寄って運び屋を探す。

 組合からは暇をしている運び屋を勝手に探してくれという言葉だった。

 運び屋はその性質上トラブルが起こりやすいためあまり関与はしたくないらしい。


 何人か打診してみたのだが、確かに易々と決めるのは難しい。


「女三人? いいね行くよ」


 女だけと知って露骨に態度が変わる男の運び屋。

 顔を見るだけで何を考えているかすぐ分かる。


「……チッ」


 碌に会話もしようとしない壮年の運び屋。


 アズでもわかる、雇う気がしない人達だ。

 近くにいた冒険者から話を聞くと、運び屋は仕方なくやる人間が多くまっとうな奴ほど専属になったり金を溜めて足抜けしてしまうという。


 下手に雇う位ならこのまま三人の方が良いか……、そうアズが判断しようとすると昨日の少女が目に入った。

 フードを被り大きなリュックを背負っている。


 彼女も運び屋だ。

 アズは近寄って話しかける。


「ねぇ、君も運び屋だよね」

「……あんた、昨日の。昨日はご馳走様」

「うん。良かったら私達についてこない?」

「冒険者だったのか。良いとこのお嬢様かと思った」

「そう? えへへ。それでどう?」


 運び屋の少女はアズと後ろにいるエルザやアレクシアを見る。


「女だけなんだ。どこ行くの」

「風の迷宮だよ」

「あそこか。いいね。……割り当ては? 安いと行かないよ」

「えーと、ちょっと待ってね」


 割り当ては決めていなかった。アレクシアに聞くと好きにしろという。

 エルザは笑顔でアズを見たままだ。アズがどうするかを見ているのだろう。


 アズはこれがリーダーであるということかと感じる。


 運び屋の少女の元へ戻る。


「人数で頭割りにしよう。分かりやすくていいでしょ」

「それなら文句はないけど。昨日も思ったけど随分と甘いんだねあんた」

「そうかな。そうかもね」

「それじゃあ契約は成立。私の名前はカズサ。よろしく」

「私はアズ。あっちの司祭はエルザさんで、斧を持ってるのがアレクシアさん」

「司祭様はともかく、あの格好は何? 痴女?」


 カズサがアレクシアを上から下まで眺めて痴女呼ばわりする。

 アレクシアの眉が吊り上がる。会話は聞こえていない筈だがアズは慌ててカズサの口をふさいだ。


「ダメだって。好きであの格好してる訳じゃないんだから。怒ると怖いんだからあの人」


 カズサはふさいでいるアズの手を振り払う。


「分かった、分かったってば。それであんた……アズがまとめ役をしてるの」

「そうだよ。一応任されてる」

「そうなんだ。それじゃあ宜しく。何時行くの」

「今から」

「分かった」


 カズサも準備は元々終わっている。

 アズ達三人はカズサも加えた四人で風の迷宮へ出発した。



 アズは年齢が近い相手に久しぶりに出会ったからかカズサと合間合間に喋る。

 カズサも手持無沙汰だったのかアズの相手をして身の上話などを話した。


「弟が居るんだね」

「そう。弟にはちゃんと文字とか教えてあげたいんだ」

「文字は……お金がかかるもんね」


 この世界の識字率はあまり高いとは言えない。

 貴族や商人、裕福な家庭以外は名前と数字を含めた多少の文字を読み書きできる人が大半だ。


 文字の読み書きか出来るかどうかは将来に大きく影響する。

 悪い人間に騙されることも減るし、大事な仕事を任される事もある。


 大きな街では教会などで文字の教室などもしているが、お布施が必要になる。


「うん。私は良いけど弟は苦労してほしくないから」

「兄弟は居ないけど、気持ちは分かるかも。それじゃあたくさん稼ごうね」

「よろしく。私は戦闘の時は下がってるから。自衛はするけど当てにはしないで」

「分かってる。アイテムの方は宜しくね」


 風の迷宮に入る。

 一階層は敵も弱ければ手に入るアイテムも良くない。

 最低限の戦闘だけで終わらせて二階層へ。


 カズサは拾い残しなく進行速度について来た。

 すばしっこいというか、無駄な動きがない。


 二階層も最低限の戦いで抜ける。

 カズサに魔物が飛び出していったが、カズサはナイフで上手く凌いでいた。

 アズは手早く魔物を片付けると、カズサが相手にした魔物を斬る。


「ありがと」

「うん」


 そして三階層。

 ここからようやく本番だ。


 蜂の魔物は居なくなってしまっている。

 巣を燃やしたというとカズサが驚いていた。

 カズサによると巣が破壊されたら数日間は蜂の魔物は出ないとのことだった。


「巣を燃やしたなら沢山アイテムが手に入ったでしょ」

「そうなの。それだけで荷物が一杯になっちゃって帰る事になったよ」

「だから運び屋……私を連れて来たんだね。良いと思うよ。ここは数を集めてなんぼだから」


 狼の魔物から出た風のエレメントをカズサはリュックに詰め込む。

 カズサが背負っているリュックは大きい。アズ一人くらいなら丸々入るだろう。


「それって一杯になったら持てるの?」

「簡単な軽量化の魔法は掛けてあるから後はなんとか頑張って、かな。重い素材の時は半分も持てないよ」

「そうなんだね。やっぱり重いんだ」

「そりゃそうだよ」

「だよねー」


 アレクシアはそんな二人を眺めてる。


「アズは随分嬉しそうね」

「そりゃあ連れが私達二人しか居なかったからはしゃいでいるんでしょうねー」

「私はともかくエルザ、あんたはちょっとズレてるからその所為じゃないの」

「えぇ酷いこと言いますね。創世王様がお許しになりませんよ」

「廃れた神に何が出来るのよ」

「アレクシアさん。友達居なかったのが良く分かりますね」


 エルザが溜息をついた。



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