第31話 風の迷宮へ②
アズ達は風の迷宮に到着する。
迷宮の混雑具合は空いている、といったところだ。
王都から衛星都市にやってきてから風の迷宮に来たが、多くの冒険者達は事前に聞いた通り土の迷宮に向かっている様だ。
その冒険者達に需要があるのが此処で手に入る素材一覧となる。
迷宮へいざ入ろうという時、アレクシアが口を開く。
「いつも思うのですけど」
「何ですか?」
「金に関してはあの男、嗅覚が利きますわね」
「そうなんですか? 私にはあんまり分からないですけど」
アズが頭を傾げる。
実際のところアズは自分でお金を扱う経験が少ない。
奴隷になってからの方がお金はよほど身近だ。
アズにとってお金は主人から貰い、市場や店で買い物をする程度の認識だ。
「普通の人間なら、装備が整ってなくても土の迷宮に行きますわ。だって拡張されたばかりの迷宮は美味しいんですもの」
「実際皆あっちに行ってますねー」
「そうね。でも私達は風の迷宮にいる。相場は私も確認しましたが、今ここは堅実に稼げますわ」
話しながら中に入ると、迷宮の中は灯りが要らない程度には明るい。
全体的に緑色の色調をした壁が奥へと続いている。
しばらく通路を歩くと小部屋に到着し、また通路が続くという構造をしている。
話してる間に風を纏った球体が向こうから飛んできたので、アズが一刀両断する。
すると、小さな緑色の石が落ちた。
アズがそれを拾い、上に掲げてみる。
鈍い緑色の石で、僅かに持った手に風を感じる。
「わ、凄い。風が出てますよこの石」
「風のエレメンタルね。といっても品質は屑だけど」
「屑なんですか……」
「魔石もエレメンタルも、良いものはもっと奇麗よ。宝石のようにね」
「楽しみですね」
アズは石をリュックに詰める。
「品質はまだ入り口だから仕方ないわ。事前情報だと、三層以降から採れる魔石やエレメンタルが活発に取引されてるみたいね。屑石も集めれば売れるわ」
「それじゃあどんどん行きましょうねー」
「魔物の察知はやっておくから前は任せたわよ」
エルザが先導する。
今回はエルザが火の属性を持つ盾を片手に装備している。
アズは体格と戦い方の関係で盾は向いていない。
風の属性を持ったゴブリンや、ネズミの魔物など驚異の低い魔物をなぎ倒しながら移動する。
小さい風の魔石やエレメンタルをアズが拾ってはリュックに入れる。
そして二層に上がると、広い部屋に出る。
そこでは密閉された建物であるにも関わらず、風が渦巻いている。
不思議な場所だった。風の迷宮という名前の示す通り風の元素が強いのだろう。
二層からは出てくる魔物も変化する。
出てくる魔物の中には僅かな大きさしかない小さな魔物もいる。
「痛いっ、あれ? あいたっ」
アズが周囲をキョロキョロするが、何もない。
しかしアズに何かが当たり、その度にアズが痛がる。
遂にはくるくると回り始めてしまう。
アレクシアは右手の人差し指をアズへ向け、僅かな詠唱を終える。
そうするとアズの周りでいくつか小さな火の手が上がり、すぐに燃え落ちる。
「きゃっ!? なんですかこれ」
「虫の魔物ですわ。小さすぎて見えづらいですけど」
「虫ですかぁ……」
アズは過去の思い出からげんなりした顔をする。
「まぁ、今の通り弱いし放置してもちょっと痛いくらいよ」
「虫、特に虫の魔物は嫌いです……」
「ほらアズちゃん見て見て」
エルザが盾を空間に向かって突き出すと、盾の表面が燃える。
燃えカスがパラパラと地面に落ちた。
「そんな簡単に倒せちゃうんですか」
「面白いわよねー」
「ほら、行きますわよ」
二層の敵は風の元素を持つ虫の魔物が多く、アズは半ばやけになって剣を振り回す。
アズの剣は軽々と虫の魔物を切り裂いていく。
大きな蝶の魔物が風に乗って羽ばたいてくる。
蝶ならばまだマシだとアズが安心していたら、睡眠作用のある鱗粉を撒かれて眠りこけてしまう。
蝶の魔物はアレクシアの火球の魔法で鱗粉毎薙ぎ払われていった。
「痛いです……」
眠ってしまった際にできたたんこぶをアズが押さえる。
「治してあげますからねー。ふふふ」
「笑わないでくださいよエルザさん」
アズが笑われることを拗ねる。
エルザの癒しの奇跡により、たんこぶはすぐに引っ込んでアズは痛みから解放される。
「ありがとうございます!」
「アズちゃんはいい子ねー」
「あわっ、苦しいですよ」
エルザが思わずアズを抱きしめる。
「ほらほら、まだ休憩には早いわよ」
アレクシアが手を叩いて先を促す。
蝶の魔物が出たらアズが真っ先に斬ることにより、被害もでなくなった。
「あれ?」
「アズ、どうしたの?」
アズが複数の蝶の魔物を一閃し、小さい風の魔石を拾った後に立ち尽くすのを見てアレクシアが声をかける。
「いえ、あの……剣と繋がってる感覚がするんですけど。何なんでしょうか」
「あら、なるほどね。そろそろかと思ってたけど、成長がやっぱり早いわ」
アレクシアが感心する。
一方アズは何が何やらわからず、不思議な感覚を持て余していた。
「魔力が基準を超えたのよ。今までは少なすぎたから剣に魔力を流すこともできなかったんだけど、それが増えたのね。おめでとう」
「やりましたねー」
「そうなんですね?」
「多分剣による斬撃の威力が上がってるわ。丁度三層だから、試し切りしてみましょう」
アズは分かったような分からないような、そんな顔をして頷く。
だが、強くなったならうれしい。主人の役に更に立てるのだから。
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