第4話
「やっほ~なっちゃん。どしたの」
嶺奈ちゃんが去っていってほどなく、入れ替わるように桜花ちゃんが声を掛けてきた。
「ううん。大丈夫。さ、涼那ちゃんのところ行こうか」
「なっちゃん。場所分かるの?」
そういえば。受付に来た本来の目的を忘れていた。
「…………っあ」
「…はぁ~。まったく。聞きに行くよ。ほら」
嶺奈ちゃんと再会できたことでかなり浮き足立ってたかもしれない。
結局、桜花ちゃんが涼那ちゃんの病室を聞いて、2人して向かうことになった。
「で、さっきはどしたん?妙に浮かれてた気がするけど」
「あぁ~。うん。嶺奈ちゃん。…えっと、阿納さんとちょっと喋ってた」
「え?そんなことであんだけ浮かれられんの!?すごっ」
「失礼な。涼那ちゃんのことも心配だったけど、嶺奈ちゃんもずっと姿見てなかったから心配だったんだよ」
「…………あぁ~。そういうことか。ようやく繋がったわ。なっちゃんがゆーちの無事を確認してもどこか不安そうだった理由。そこかぁ~。…まぁ、無事そうならよかったんじゃない?」
「…………うん」
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しばらく病院内をうろついて、目当ての涼那ちゃんの病室前までやってきた。
「やっほ~ゆーち~?入っていい?」
「うん。い~よ~」
やっぱり、この2人がいることが私にとって1番の日常だ。どことなく安心できる。
「やほ!金曜ぶりだね。だいじょぶそ?」
「大丈夫だったら手術なんて話出ないよ。こりゃ新人大会は怪しいだろうねぇ」
見た感じは酷くはなさそうだけど、だとしたら入院とか、手術とかっていう話は出てこないだろうから、それ相応には酷いんだろう。
「メールでも言ったけど、部活中にやっちゃったみたいだからねぇ。顧問からも『安静にしてろ』って釘刺されちゃった」
涼那ちゃんのその声には、残念という感情と、諦めの感情が見え隠れして。
「ま~たなっちゃん思いつめた顔してる。大丈夫だよ。大会なんてごまんとあるんだから。ちゃんと治して、ちゃんと練習する。それの積み重ねだよ」
「でも………」
「大丈夫大丈夫。どうとでもなるって。ま、今週中は学校行けないだろうけどねぇ」
「そうだよなっちゃん。ゆーちがこう言う時は大抵どうにかなるって。どうせリハビリ終わった後の大会で華々しい結果飾って復活宣言するんだろうから、なっちゃんが思いつめることは何もないよ」
「…うん」
やっぱり、2人には支えられてばっかりだ。どうやっても拭えない不安感を汲み取ったうえで前に向かせてくれる。最高の友人たちだ。
「ま、ゆーちの怪我が思ってたよりは酷くなくてよかった、ってところかな。そろそろ日も暮れるし、帰ろなっちゃん」
「…う、うん。また来るね。涼那ちゃん」
「あいよ~。待ってる。って言っても、まぁ週末には退院してると思うけどねぇ」
その言葉を背中に受けながら、もう一度入り口で手を振って、私たちは病院の入口へと向かう。
受付近くまで来たとき、ちょうど前から入ってきた人と目が合った気がした。
「…?」
「ん?どうしたのなっちゃん」
「……いや、何でもない」
どこまでも吸い込まれそうな瞳。…あのいでたち、どこかで……?
「なっちゃん?お~い?」
桜花ちゃんのその声が気にならないほどに、今の男性のいでたちに興味があった。
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