第21話 リーピ・プラサン。
ズエイは頭を抱えつつも思わず笑ってしまう。
あのリーピ・プラサンが配下のバンディットを使い刺客を送り込んできて、手口に怒ったクオー・ジンがバンディットを皆殺しにしてしまった。
「あのリーピ・プラサン」というのは古参のプラサン家と何年も欲望の島で生きているが未だに新参に位置するズエイではズエイから仕掛ける気は無かったが、仮に仕掛ければ面倒な事になるのは明らかな相手だったからだった。
そうでなくともやっかみに近い嫌がらせは定期的に受けた。
力場が生まれた時には採算度外視でゲーン探索団に損害を与えて来たこともあったし、ハッピーホープではプラサンの所の若いのがズエイの店の女を買って行為と称して傷をつけたなんてケースもあった。
力場の方は不問に終わり、ハッピーホープではリーピが部下の不始末として随分な金額で手打ちにする以上ズエイは言えて「いやいや、流石は老舗のプラサンともなると躾のなっていない飼い犬の不始末にもキチンと対応なされていますね」くらいなもので、何度血祭りにあげてやろうかと思いながらも自身の方が新参で規模も小さく、バンディットは常時40人前後の構成員がいるのに対しゲーン探索団は少数精鋭を持ち味にして、最大でも15人のメンバーしか手元に置かないようにしている。仮にハッピーホープで勝てても最後の希望で打撃を受けては欲望の島ではやっていけない。それだけではなく敵はいつでもいて他にもいる。生き馬の目を抜く世界で一つの敵に固執するのは良くないことだった。
クオーはバンディットを壊滅させただけでは飽き足らず、周りへの口封じ以外の目的でクオーが自分を呼んでいるとイーウィニャが伝えにきた。
委細を聞いたズエイは「クオーはどうしてる?」と聞くとイーウィニャは「ひどく落ち込んでます。コイヌの姉だったジョンダリを殺したって…」と言って表情を曇らせる。自由人のイーウィニャでも今回の事はショックだった事が伺える。
「成程な」と返したズエイはそう多くない可能性を模索しながらゲーン探索団のハウスに行くと血まみれのクオーが軒先に置かれた木箱に座って「お待ちしていました。お呼びだてしてすみません」と謝ってくる。
「…血まみれでどうした?洗わないのか?」
呆れるズエイの質問にクオーは首を横に振ると「バンディットを滅ぼしました。奴らのカケラは回収しますか?」と質問には答えずに聞いて来た。
カケラは低品質だが完成品はショークに早速売りつけてしまえる。
「悪くないな。それをする見返りは?」
「私は今欲しいものがあります。それはズエイ・ゲーンに何を支払えば手に入れて貰えるか皆目検討が付きません。その為にまずはカケラです」
「バンディットのカケラ全部と引き換えだとしても難しいのか?言ってみろ」
「バンディットの親をしているリーピと言う人間をください。ジン家は受けた恨みは忘れません。必ず恨みは晴らします」
一番最初に考えついて一番簡単だが悪目立ちをする事になり余計な敵を作る以上、なかなか行動に移しにくい内容。
ズエイは少し頭を悩ませながらも即座に計算をし、見込まれる利益と損害を天秤にかけて利益が勝った事で行動を開始する。
「ボラヴェン、カイには言ってやるからバンディットのハウスを監視だ」
「実はやってます。後はマリクシとサンバがカケラを見張ってます」
「よし。インニョン…はダメか。ケーミーとイーウィニャ、お前らは俺の店まで行って若いのを総動員して育ちきっているバンディットのカケラを回収しろ。後は…今育て終わってる奴は誰だ?」
この質問に長身痩せ型のウーコンが「俺、今日のカケラ探しでいいのがなかったから」と手を挙げる。
「…お前のカケラは…女王蜂の針だったな。麻酔針で行くか」
ズエイは言うだけ言うとクオーに「バンディットのハウスで待ってろ」と言いウーコンと消えていく。
暫くしてバンディットのハウスに来たズエイは頭陀袋に人間を入れて部下に持たせて来た。
中身は勿論リーピ・プラサンだった。
リーピは欲望の島ではまだマシな人間だが愚かな二代目で時勢を読みきれない。親の残した余力で生きている。そんな男だった。
リーピはなりふり構わず一代で成り上がったズエイを見下し敵視していて何かとズエイにちょっかいを出していた。
そんな中、クオーとリユーがAランクを手に入れて目を見張る活躍をした事に気分を害し、リユーが死に、残ったクオーを調べるとコイヌを溺愛していた事が判明し姉のジョンダリがバンディットにいたので、ジョンダリを使いクオーを狙ってしまった。
頭陀袋を指差して「コイツだ」とズエイが言うとクオーは「ありがとうございます。ズエイ・ゲーン、私はこの厚誼に報いる事が…」と言うが最後まで言う前にズエイはわざと商売人の顔になると「いえいえ、こちらこそ先行投資の甲斐がありましたよクオー・ジン」と恭しく言った。
リーピ・プラサンはバンディット壊滅の報せに青くなり、部下たちを叱責するだけでどうするかを考えていなかった。
考えついたのは金を積んで新たなバンディットを作る事だけで、バンディットを潰された事もあり仕返しは考えても見下していたズエイへの根回しや手打ちなんかは考えていなかった。ハッピーホープの店では前もって手打ちまで視野に入れていたから行動することが出来たが今はそこまで考えて居なかった。
ハッピーホープでこの行動の遅さは命取りで、あっという間にズエイの私兵に攻め込まれる事になる。
正解はさっさと誰もいないバンディットが勝手にやったと切り捨てて金でも何でも支払う事だった。
だがリーピはそれをしなかった。
それは今までもズエイが攻め込んでこなかったから生まれていた油断だった。
ズエイの私兵はそこらの雇われ共とは練度も忠誠心も何もかも違う。
少数精鋭のゲーン探索団で地獄の日々を生き抜き、無事に卒団し人間になった連中がズエイの下で働いている。
更に言うなら力場で家族を殺されても我慢を強いられ、店の商品を傷付けられても我慢を強いられていたメンバーだった。
ズエイの手際は鮮やかで、営業を止めないように裏口から部下を侵入させるとNo.2を早々に確保してズエイ・ゲーンが仕返しにきた事、リーピ・プラサンの部下として今ここで死ぬかズエイ・ゲーンの部下になって生きるかを選ばせる。
何人かの部下はリーピを選んで…リーピや先代に義理立てをして歯向かい死んだが、リーピ自体に人徳は無いのですぐにNo.2なんかの部下達は寝返る。
そしてほぼほぼ無傷でズエイはリーピの店とリーピを手に入れてしまった。
今回の筋書きは簡単で、リーピ・プラサンの二番手が愚策によってバンディットを失ったリーピを見放してクーデターを起こし、勢いのあるズエイの傘下に自ら志願して入った形になる。
ズエイの上手いところは過剰な利益を追求しない事で給金は一割増。オーナーが変わる事で起きるキナくささを理由に辞める者に対しても引き留めずに最後の給金に迷惑料を乗せる事だった。
クオーの元を離れてからバンディットのハウスで会うまでの数時間の出来事を思い返しながらズエイは「ワタクシ、この度プラサンが経営するロイヤルプラサンという数件の酒場や娼館のドリームプラサンと言う、少々名前に品がない店舗を手に入れる事が出来まして、クオー・ジンのもたらしてくれたカケラ達と合わせますとかなりの恩恵となります」と言って笑った。
ニコニコと笑うズエイに「しっかりとなさっている。ではありがたくこの者の命を頂戴します」とクオーは感謝を口にして穏やかな顔でお辞儀をすると破壊者の顔で顔を上げて無言で頭陀袋を開ける。
ウーコンのカケラ、女王蜂の針によって昏睡しているリーピは丸々と肥えた男で「びひゅるる〜」といびきを立てていた。
「皆、ありがとう。先に帰ってくれないかな?私はこれから思いのままに暴れるんだ」
振り向かずに言うクオーにダムレイ達は「…団員を見守るのがリーダーの仕事だ」「俺達、クオー、仲間。だから、待つ」「邪魔が入らないように周りを見てるからやっちゃえって」「本当だよな」と声をかける。
そしてズエイも「見ていくぞ?」と言って部下に用意させた綺麗な椅子に腰掛けてタバコを吸った。
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