第20話 ツミビトと監視者。
絶叫が止み、静寂が訪れる。
家の外はこの絶叫により騒ぎにはなっていたが誰も踏み込んでいこうとはしない。
窓は真っ赤になっていて中の様子は伺えないし他人のチームハウスに入ってもイイことはない。
外の者たちが見ていたのはゲーン探索団のクオー・ジンがジョンダリと呼ばれる少女と手を繋いでチームハウスに入っていく所で、その後聞こえてきた絶叫は男も女も混じっていて誰のものかわからない。
その絶叫が止んでしまうとこの後は扉から出てくる者が誰かという事になるが[とにかく1番に関わってはいけない]そういう状況だった。
一方、ハウスの中。
クオーはドアの所で腰を抜かしているジョンダリに手を伸ばす。
ジョンダリはとても怖い思いをしたが生きる為に長年の経験から幾分か冷静さを取り戻し今の状況を整理し始めていた。
バンディットのメンバーは自分以外誰もいない。
↓
ズエイ・ゲーンに拾ってもらえればバンディットの飼い主であるリーピからも守られて後腐れは何もない。
↓
この男の手を取れば幸せになれる。
そう思って目の前で今も口から湯気を吐き出しながら立ち尽くし、真っ赤で血まみれの悪魔に見えてしまうクオー・ジンが伸ばしてきた手を取ろうと手を出しながら「ありがとうお兄さん」と言おうとした。
だがクオーの手はジョンダリの手を取らずにジョンダリの首へと向かう。
ジョンダリは首を持たれて高々と持ち上げられた。
突然の事に意味がわからなかった。
そして苦しくてどうにかなりそうだった。
「私は言ったよ?ここから誰も生きてかえさないと」
クオーの言葉にジョンダリは背筋が凍り死を覚悟した。
だが同時に訳がわからなかった。
そんなジョンダリの気持ちを察してかクオーは優しくジョンダリに語りかけた。
「私はね。君が私に打ち明ける事を散々待ったんだ」
「我が娘、コイヌの姉であると」
「バンディットに命じられて仕方なくきた刺客だと」
「手を握った時に毒を盛ったと」
「男共に陵辱されているから助けてくれと」
「どれか一つでもキチンと言えば冷静に我慢をしようと思ったんだ」
クオーは話しながらジョンダリの首に力をこめていく。
ジョンダリは苦痛に顔を歪めるがクオーはそのジョンダリの顔を見ずに俯き、足元を見ながら言葉を続けた。
「私は君の笑顔が許せなかった。最愛の娘の笑顔に似ているのに歪んだ笑顔。だが打ち明けてくれれば…育った環境のせいにして受け入れるつもりだったが君は最後まで打ち明けなかった。だから私は冷静ではいられない。
そして恐らく思い違いをしているだろうから言おう。
我が娘は打算もなく私に父を求めた」
この言葉と共にジョンダリはこの世を去った。
「無事か!クオー!!」
ダムレイとサンバは群衆をかき分けてバンディットのハウスに乗り込んできた。
「素材屋からコイヌに似たガキと共に出てったって聞いてすぐに来た!テメェら!ウチの仲間に傷を付けてたら容赦…」
ダムレイが言えたのはここまでだった。
血で真っ赤に染まりむせかえるような鉄臭さの中、クオーは床板を踏み抜いて大きな穴を掘っていた。
そしてその中に子供たちだったものを全て放り込んでいた。
振り返って「やあ、来てくれたのかい?」と言ったクオーは泣いていた。
「クオー…、お前」
「やはり私のような破壊者でツミビトにはこのような報いが待っているようだよ」
クオーは涙ながらに自身が罪人だからコイヌの姉が刺客として送り込まれてしまい怒りに支配されて皆殺しにしてしまったと言った。
ダムレイは穴の中の子供達だったものを見て「お前…じゃあジョンダリを…」と口にするとクオーは「ああ、あの子の言葉も笑顔も全てがコイヌを冒涜していた。そしてあの子を送り込んだバンディットの連中…あの子を陵辱していた、あの子を助けなかった全てを許せなかった。だから全てを破壊した。あの子を絞め殺した」と言った。
「埋める?大地に?」
「ああ…埋めるよ。この連中は天に還らずにまたこの島に生まれてくるといい」
クオーは全てを埋め終わるとダムレイに「今すぐズエイ・ゲーンに会いたい。私にバンディットを差し向けた連中を殺させてくれ」と言った。
これだけ暴れても暴れたり無いクオーにダムレイが「…お前」と言ったとき、クオーはそれ以上の言葉を許さないように「ジン家は受けた恨みは忘れない。必ず晴らす。頼むよ」と言った。
真っ赤に染まり、今も涙を流すクオーに何も言えないダムレイはひとまずクオーを連れてハウスに戻り、イーウィニャにズエイを呼びに行かせる。
キロギーがお湯を沸かしてクオーに渡すとクオーは「ありがとう。でもまた血に塗れるから勿体無いよ」と言い、インニョンに「済まない…。私はやはり破壊者だ」と頭を下げた。
全てを聞いていたインニョンは泣きながら「そんな事ない!クオーは悪くない!許せないのはバンディットの連中だよ!」と言って、ハイクイが「そうだよ。一緒に行けなくてごめん」と続けた。
皆がクオーを気遣う中、ドアがノックされる。
ズエイはノックをしないので皆が報復の可能性を考えて殺気立つとドアの外からは少年の声で「俺だ。武器をしまってくれ」と聞こえてくる。
ハイクイが「カイ?」と言いながら剣をしまう。
「ハイクイ?」
「監視者のカイ。でもハウスに来るなんて珍しい…」
ハイクイが険しい顔で扉を開けるとそこには小綺麗な格好をした少年が立っていた。
「こんにちはハイクイ」
「こんにちは。珍しいね。シーカンは?」
「シーカンが来るほどの話ではないからね」
カイは中に入ってクオーを見て「俺はカイ。この町の監視者。普通なら神のカケラを大っぴらに使えば罰するけどあなたは違う。キチンと使って抑え込んで」と言った。
「はじめまして。クオー・ジンです。カイ、あなたには見えているんですね?」
この言葉にハイクイが「クオー?何が見えてるの?」と聞くとクオーは「恐らくこれだよ」と言って力を抜くとクオーの顔から手足、素肌の部分が赤くぼんやりと光った。
「そう。魔神の身体はキチンと育つまでは視覚的な自動防御が働くから目立ちます。あなたがキラキラと光ってしまっては皆が俺とシーカンが特別扱いをしたと思い込んでしまいます」
「わかりました」
カイはこの言葉だけで満足そうに頷くとダムレイに「この後は何かあればズエイ・ゲーンが動くからその時は貰うものを貰う」と言って帰って行った。
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