ツミビトの報いと謀略と復讐に向かう破壊者。

第17話 望まぬ出会い。

行動目的と目標の見つかったゲーン探索団は翌日から行動を開始した。

再度Cランクを育てることになった皆は手分けをしてカケラを拾いに行く者、クオーとハイクイのカケラの為にも魔物を狩りに行く事について行く者に分かれる事になる。


インニョンやケーミーのように戦闘に参加する事が厳しい者が籠を持ってクオー達の後に着いていく。


この日は籠が4つでも売ると儲けの多い鋼鉄大亀の生息する沼地まで出向く事になった。

本来なら外殻の堅い鋼鉄大亀は火や雷のカケラで退治するのだがクオーとハイクイには関係なく、ペチャンコに潰して細切れに変えていく。


半分ほど鋼鉄大亀で埋まった籠を持ったインニョンが「うぇぇぇ…重い」と口にして、ケーミーも「本当、重すぎだよ」と漏らす。


「すまないね」

「重い分は俺とクオーで持つよ」


「話しながら増やしてる!」

「もう帰ろうよ!」


インニョンとケーミーの談判にハイクイが「でも多いと夕飯が多くなるよ?亀の日は何がもらえるのかな?」と疑問を口にしてクオーが「亀かい?」と質問をする。

ハイクイが斬り刻んだ鋼鉄大亀を見ながら「亀って美味しいの?」と更に聞くとクオーが「ああ、スープに入れると美味しいよ」と説明をしながらペチャンコに潰していく。


ケーミーが「なんで話しながら切り刻んで叩き潰してんの!?」とクオーを止めようとしてインニョンはハイクイに「手!止めてよ!」と言っているが2人は「まだ入る」と言って止まらなかった。


これが悪手だった。

籠は完全に重くなってしまい、ケーミーとインニョンは独りでは持ち上げられなくなってしまう。


「可能な限りは私の籠に移そう」

「俺も持つよ」


何とか歩ける重さにまで軽減した事で歩けるようになったケーミーとインニョン。重たい籠を持って最後の希望に戻る頃にはケーミーとインニョンはダウンしてしまった。


街の入り口で籠に寄りかかってダウンしているケーミーとインニョンを見てハイクイが「どうするかな…、最後の希望なら周りの目があると言っても、流石に女の子を街中に放置したら何されるかわからないんだよね」と説明をする。

確かにモラルの欠如した街では少年少女たちの性の目覚めは早い。

そこに無防備な少女が落ちていれば何があってもおかしくない。

その逆もあってこれが仮にアンピルなんかでも襲われてしまっている。


性の欲望に従順な街、確かにクオーもここで暮らしていて、同性愛者から本土ならあり得ない少年少女達が路地裏で行為にふけっている場面までを目撃しているので「…成る程。だがこの亀も売らない訳にはいかないんだね」と言った。


ハイクイはダムレイ達が出かけた方角を見て「うん。こうなるならキロギーについて来て貰えば良かったよ」と言う。キロギーならケーミーとインニョンが居ても街の連中とはある程度やり合えるし相手も無傷では済まないので襲いかかろうとはしない。


「流石に根城に帰って2人を寝かして戻ってくる訳にはいかないね?」

「うん。ハウスも安全じゃないから、普段ならズエイの旦那に頼んで留守番を手配するけど今からじゃ難しいかな」


この説明でクオーがハイクイ、インニョン、ケーミーの籠を1人で持って素材屋に行くことにしてハイクイにインニョンとケーミーを任せる事にする。



「平気?」

「流石にひと月近く住む街だからね。ある程度はわかるよ」


「…そうじゃないよ。刺客みたいな奴とか、クオーの魔神の身体はAランクだから狙われるよ」


ハイクイの心配そうにクオーを見る目。

クオーは優しく微笑むと「現行犯以外でカケラを使わずに倒せば問題ないよね?」と確認をする。


「うん。俺達は人になったから平気。現行犯で不利なのは他の連中」

「それなら任せてくれ」


「あ、一応聞くけど籠は四つも平気?」

「重さは問題ないさ、問題はかさばって邪魔な事かな」


クオーの顔に余裕を感じたハイクイはまだ歩けるケーミーに肩を貸して背中にインニョンを背負うと「2人とも重くなったね」と喜ぶ。


フラフラのケーミーとインニョンが「うん。クオーのおかげ」「ごめんねクオー」と言うとクオーが「いや、キチンと帰ったら夕飯までは寝るんだよ」と言って微笑みかける。


ケーミーとインニョンが「はーい」と答えるとハイクイが「じゃ、寄り道しないで帰って来てね」と言ってハウスに向けて歩いて行く。


クオーはハイクイ達を見送りながら四つの籠を抱えると邪魔そうに素材屋にむけて歩を進めた。



鋼鉄大亀を籠四つも抱えて歩くクオーはかなりの重さになっていて歩く度に土の道に足跡がついていく。


何人かクオーに因縁を付けようと当たり屋まがいの行為に出たが逆に大怪我をする羽目になり、あっという間にクオーの前は誰も居らずに皆道を譲っていく。


素材屋の前まで来たところでクオーは籠を下ろそうとすると小さな女の子の声で「扉?開けてあげるよ」と聞こえてくる。


「すまないね。誰かは知らないが助かるよ」

クオーは感謝を告げて素材屋の扉が開くのを待って中に入ると「済まないゲーン探索団だ。今日は鋼鉄大亀を持ってきたんだ」と声をかけて中から素材屋が「…お前、それ中身全部鋼鉄大亀か?籠が壊れる限界まで詰め込んだのか?」と出てきて弟子達に命じて籠を回収していく。


あまりの重さに弟子達はヒーヒー悲鳴を上げながら籠を取って素材屋に言われるがままに隅の方に置いて行く。


「ガキとは言え力自慢がヒーヒー言う籠を四つもかかえるか?」

「すみません。うちの仲間達も皆音をあげていました」


クオーは笑いながら説明をする中で足元の少女に気付き、「君がドアを開けてくれたのかい?」と声をかけながら姿を見た。

少女はインニョンくらいの歳の頃か、もう少し幼い感じ、年でいえばコイヌとインニョンの中間くらいに思える少女だった。


少女は「うん。重そうだったから!」と言って振り返るとクオーはその少女の顔に言葉を失った。



「コイヌ…」


クオーを父と呼び兵士に蹴り殺された少女。

その少女はコイヌに似ていた。


少女は首を傾げて「私はジョンダリだよ?」と言うとクオーはうわずった声で「そ…そうかい。済まなかったね。助かったよ」と感謝を告げる。


クオーはそのまま素材屋に「ゲーン探索団にお願いします」と言って立ち去ろうとした時、素材屋はクオーを引き止めるとジョンダリを追い返して「普通は言わないがな」と言ってから「アレは刺客だぞ?気を許すな。無視をしてさっさとねぐらに帰んな。ダムの野郎に後は任せろ。今はアイツが団長だろ?」と言う。


クオーは悲しげな顔をした後で「ええ、ですよね。そうじゃなければあの子にそっくりな子が私の前に来てくれる訳がありません」と言った。


「わかってるなら良いんだ。話すな。無視をしろ。後は帰ってダムの野郎に任せて寝ればこの悪夢は二度と見なくなる」

そう言った素材屋にクオーは礼を言って扉を開けると扉の前で膝を抱えて座っていたジョンダリが「お兄さん!帰るの!?」と声をかけてくる。


素材屋は無視をしろと言った。

そんな事はクオーにもわかっていた。


だからこそこの話はここで終わる。


クオーが無視をしてハウスに帰ってダムレイに刺客を送り込まれたと言い、相手はコイヌによく似た少女だと言えば後はズエイ・ゲーンに話が回ってなんらかの報復があって手打ちを迎える。


ここでなくてもよくある話。


少女はヘタを打った事を責められるかも知れないが命までは取られない。

だが1日〜2日のメシ抜きに骨の一本は覚悟しなければならない。



元から話を持ち込まれた段階で覚悟は出来ていた話である。

断れない話。

断れば殺される。

受けても怪我をする。



そんな話だった。


同情心は良いことがない。

この街で生きる最低限のルール。


クオーにもそれは理解できている。


だがクオーは最愛の娘と認識したコイヌに似た少女を前に冷静では居られなかった。



「ああ、私の仕事は終わったんだ」



この言葉に素材屋は頭を抱え、ジョンダリはニヤリと笑った。

ジョンダリはこの勝負に勝てたと思った。


刺客に気付かない余程のバカか、刺客と気付いてもコイヌに似た自分を見捨てられなかった大バカだとクオー・ジンを見て思い込んでいた。



「お兄さん。お散歩しようよ」

「ふむ。君は仕事はないのかい?」


「うん。今日は終わったよ。今帰ってもタダ働きが増えるから帰りたくないの」

「私はこの辺りに疎いから教えてくれるなら良いかもね」


ジョンダリは「任せて!」と言ってクオーに「こっちこっち」と手招きをした。


クオーは「わかったよ」と言った後で素材屋の方を見て「すみません。ありがとうございます」と頭を下げて素材屋を後にした。

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