第16話 ゴブリンの価値。

ゴブリンの洞窟に着いたクオーは遅れを取り戻すと言い、洞窟から飛び出してくるゴブリンを出てくる度に叩き潰しては横で控えるケーミーやイーウィニャに向かってぐちゃぐちゃになったゴブリンを蹴飛ばしていく。


「うぇぇ…。非常識」

「凄いけど手が汚れるよね」


女性陣の中では自由人で明るい性格のイーウィニャはつまむようにゴブリンの死骸を籠に入れていく。少し離れた所でハイクイが「本当、クオーは凄いね」と言い、クオーも「そうかい?ハイクイほどではないと思うよ?」と返す。


当初の予定はダムレイとハイクイ、クオーが中に入ってくる話だったがクオーを待つために出入り口にゴブリンを誘き寄せる算段になっていた。


ハイクイは別の巣穴から襲いかかってくるゴブリンが洞窟外に出た瞬間に風神の乱気流が起こす風の刃で切り刻み、それをダムレイが大蛇の束縛を応用してかき集めてキロギー達がカゴの中に入れていく。


周囲を警戒しているダムレイが「お前たちはどっちも非常識だよ…。なんで話しながらの作業でゴブリンの群れをこんなに滅茶苦茶にできるんだ…」とツッコめばクオーは「そうかい?」と微笑み、ハイクイは「普通だよねクオー」と言っている。



1時間もすると人数分の籠が全てゴブリンの死骸で山盛りになるので「…早すぎるが帰るか」とダムレイの指示で帰る事になる。



運が良いのか悪いのか帰りにも化け羊は現れてしまう。

アンピルが「クオー!またやってよ!」と言い、「そうだね。また魔神の身体も育つし皆のご飯が豪華になるなら嬉しいね」と言ったクオーはダムレイに籠を渡して「済まないね」と声をかけると一撃で化け羊を倒して抱えてしまう。


皆はニコニコとクオーを褒めるがダムレイだけは「くそっ、俺は団長だぞ?ハク!少し持ってくれよ!ウーコン!サンバ!」と声をかけるが皆重たさに疲れていて誰もダムレイを助けなかった。



最後の希望は騒然とした。

また化け羊を抱え戻るクオーと団員全員が籠いっぱいになったゴブリンの死骸を持っていて肉屋は「またよろしくとは言ったけどもうか?」と驚き、アンピルは鼻高々に「うちのクオーは凄いんだよ!」と言う。


そして魔物の素材を買い付ける店は頭を抱えてしまう。

籠の中を一通り見て「ゴブリンの皮は鎧のつなぎに使えたりするけどこんなにどうすんだよ?」と頭を抱えると素材屋の後ろでダムレイが「とりあえずゲーン探索団が籠を12個パンパンに持ち込んだんだからズエイの旦那につけてくれよな?」と言う。


そのダムレイの後ろでキロギーが「そうだよ!数をちょろまかすなよな!」と言い、素材屋は「しねえよクソガキ」と言い返した後で「籠半分のゴブリンはペチャンコで残りは切り刻まれてるし…」と青い顔で言った。


この日のゲーン探索団は何もかもが上向いていた。

周りからの羨望の眼差し、ハイクイとクオーが手にしたAランクの神のカケラ。

最後の希望の連中がどれだけ願ってもひと握りしか手にできない人の証。

そして結果の全てに歓喜した。


ズエイは不在だがキチンと報酬は用意されていて夕飯は豪華な羊肉を使ったステーキだった。


キロギーは飛んで喜んで「何これ!?」と喜ぶとかつて団長を務めていた男から話を聞いていたダムレイが「化け羊を仕留めたから羊肉のステーキだ。クオーが二匹仕留めたから明日もだぜ」と言うとキロギーは「ダムレイ!明日から化け羊だけ狩ろうよ!」と喜び「バーロー、それじゃあハクのカケラが育たねえだろ?」と呆れる。


イーウィニャ達は肉の味に泣いて喜びクオーに御礼を言う。

「いや、喜んでもらえて私も嬉しいよ。破壊者の私もこうして皆と食卓を囲めて嬉しいんだ」

クオーはしみじみと感謝を口にして肉を口に運ぶ。


決して上等ではない肉。

本土ではごく普通に食べられる肉の味だったが最後の希望では極上なのだろう。

クオーは喜ぶ仲間の顔を見ながら自分が役に立てて良かったと思っていた。




10日後、ズエイが戻るまでクオー達はゴブリン狩りに注力し、4回程化け羊を倒してキロギーとアンピルはお祭りのように喜んでいた。


そして戻ったズエイは予想外の収入に喜んだ。

クオーは金になる。

もう脳内はそればかりだった。


そして帰ってきたズエイは本土での出来事をゲーン探索団に説明する。


突然「ビジネスチャンスだ」と言うズエイにダムレイが「は?何言ってるんですか旦那?」と聞き返す。


「お前達はクオーのお陰でシータの名を得た。人として生きるには金が必要だ。それはいいな?」

「はい。先に人になった兄貴達からはそこら辺のことは聞いてます」


「この度王都でショーク・モーと言う貴族とカケラの契約を結んできた。Cランクを育てて納品すればお前達に一個につき15万ジュタークを払ってやる。それを人数で分けろ」


ダムレイとクオー以外は価値を理解できずに首を傾げる中、価値がわかっているダムレイは「マジですか!?」とズエイに聞く。


「ダムレイは価値がわかってるな。人が1ヶ月暮らすのに10〜15万ジュタークはかかる。まあ武器の手入れやそれぞれの理由があるがな…。うちの若い奴ら、ダムレイ?わかるな?アイツらは仕事の対価で月に18万ジュタークを払ってやってる」


ここでハイクイが「あれ、じゃあさ…ここで飯と寝床の心配なくてお金かからない間にカケラを育てて売ればお金って貯まるの?」と口にするとニヤリと笑ったズエイが「わかってるじゃねぇか。全員が200万ジュターク持って最後の希望を出ればいい事づくめだ」と言った。


「いい事?それ、何?」

「やりたくねえ仕事は断れる。二度と殺しを行いたくない奴は端金で人を殺す必要も殺した後で役人に付け狙われる危険もねえ」


「え!?何それ!凄い!」

「お金って凄いよ!」


この言葉でやる気になるケーミー達を見てクオーはここから説明しないとダメなのかと悟る。


「そんな訳だ。小物でもなんでもCランクは金になる。頼んだぞ」

ズエイはそう言って帰って行った。

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