ディア君の秘策
怪盗ヘルメスに対するディア君の秘策。それは――
「お姉さんが預かってしまえばいいんですよ。そしたら誰も手が出せません。予告状の時間が過ぎるまで拠点に隠れていれば更に完璧です」
「天才かよ。完封試合じゃん」
こんな短時間でそんな案を思いつくだなんて。
可愛い上に頭も良い、ディア君はやっぱすげーや。好き。
……あ、いや! 友達として! 友達としての好きだからね!?
って、私は誰に言い訳してんだ!?
「お姉さん? 大丈夫ですか?」
「え、あ、うんっ! 大丈夫だよ! 名案だねぇ、さすがディア君!」
「一旦それで怪盗ヘルメスをやり過ごして、後日あらためて交渉するのはどうでしょう?」
「よし、それでいこう!」
問題の先送りでもあるけれど、ヘルメスをやりすごせばミーちゃんの事情もなにかしら変わってなんとかなるかもだしねっ!
ひそひそ話を切り上げ、ミーちゃんにディア君のアイディアを話した。
「というわけで、私の方で預かっちゃおうかなって」
「あー。アンバーの作った魔法ポーチもあるし、カリちゃんなら適任。確かに」
うんうん、と頷くミーちゃん。
「バーミリオン様、こやつらがヘルメスとつながっている可能性もあります! 信用するのはどうかと」
「黙れ。私はカリちゃんを信じる」
側近っぽいヒゲを一喝で黙らせるミーちゃん。私の信用高過ぎね? と思わなくもない。
実際、私も神器の回収を狙ってるのであながちヒゲの言う心配も間違いではないし。
「その上で、ヘルメスには偽物を掴ませましょう」
ディア君がニコリと言う。
お? なになに。追加で何か思いついたの?
「……『
「はい。秘密裏にそっくりな偽物を作り、それを代わりに置いておきます。あ、それだけだと疑われるかもしれませんね。考える余裕を減らすためにドラゴンにそれを守らせるのはどうでしょう? アーサー、やってくれる? わざと盗ませてほしいんだけど」
『あ、うん。姐さん、いいっすよね?』
「もち。ディア君の好きにしていいよ」
アーサー君も働かせるつもりのようだ。いいよー、コキ使っちゃって。
と、さりげなくミーちゃんの側近が単語帳で会話するアーサーに驚いている。一方ミーちゃんが驚いていないのは里でアーサー君を既に見てたからかな?
「ドラゴンの守る宝、か。確かにそれは偽物を本物に見せるのに十分な説得力だね」
「ただ、模造品を用意できるかが肝になります。どうでしょうか?」
「問題ない、明日の朝までに用意する。……ま、多少粗くはなるけど、ウチも手伝うし」
長い期間隠蔽するならともかく、ヘルメスを誤魔化し予告をスカらせる間くらいは手伝った職人の口も黙らせられるだろう、とのこと。わー有能。
ちなみに私がコピーでちゃちゃっと作れないかって? すまんな、神器は時空魔法に耐性があるんだ。
ディア君とミーちゃんが仲良くキャッキャうふふと話し合ってるぅ。眼福眼福。
「……まぁ、少なくともお姉さんが預かってしまえば、その時点でヘルメスには手出しできないでしょう。ドワーフの国宝を、通りすがりの人間が預かってる、なんて、誰が想像できますか?」
「確かに。それじゃあ明日の朝また来て。そこでパパっと入れ替えて、カリちゃんに預かってもらうよ」
「わかったよミーちゃん。あ、そんならその間の警備にアーサー君貸してあげるね」
『姐さんの頼みならしょうがねぇや。よろしくっす!』
「うん、よろしくねアーサー君。……鱗は大丈夫? 結構毟られてたけど」
『大丈夫っす! 御心配痛み入るっす!』
単語帳で会話するアーサー君に、ぺこりと頭を下げるミーちゃん。
あー、やっぱり酒宴でやらかしたときに顔合わせ済みだったかぁ。
『あ。そうだ姐さん。元のサイズに戻ってもいいっすか? そっちの方が威圧感あると思うっす』
「確かに。あ、ミーちゃん。アーサー君おっきくなってもいい?」
「え、あ、うん? いいけど。……え? 大きくなるの?」
ミーちゃんの許可も取れたし、首輪の制限を外しておく。
アーサー君はずずんっとサイズアップした。車サイズになって羽を広げたアーサー君に、周囲がどよめいた。
『ぎゃおう……がうがう』
「ん? あ、ゴメンもっかい言って」
単語帳を持たずに小声でなんか鳴くアーサー君。
このところ単語帳使ってたのでドラゴン語スキルはオフにしていた。オンにして聞きなおす。
『デカくなると単語帳持ちづらいっす……これは盲点だったっすわ』
「あー。サイズ変わるもんね」
『大きい単語帳も欲しくなるっすねぇ。なんやかんや会話できた方が楽しいし』
「今度作ってあげるよ」
『あざーっす』
かくして、翌朝には本当に『
……そう、私がマーキングした模造品を、ね!
さーて、ミーちゃんからお宝を盗もうとしたのは誰だろね?
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(ストック尽きた……!! ちょっと溜めなきゃ……!!
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