第44話 レイオンのお誕生日祝い
「レイオンの誕生日が近いんだけど」
レイオンのおかげか、人攫い未遂の翌日から普段通り過ごせた。
不穏な空気はどこにもなく、日々穏やかな時間が流れている。フォーと会って、部屋で裸で過ごして、夜はレイオンと一緒にご飯を食べて同じベッドで寝る。
きっと彼は水面下で人攫いの件で奔走していると思うのだけど、あまり積極的に話題にするのもよくないかと思ってそのままだ。解決したら報告をもらうだろうし、あまり考えたくないのが本音だった。
そんな中、冬になりレイオンの誕生日が迫っている。
私の一言にゾーイも嬉しそうに頷いた。
「はい、そうですね」
「なにをプレゼントしたらいいと思う?」
あらまあと微笑ましいと言わんばかりの態度をとられた。
まだ一ヶ月もあるけど、去年は結婚してあまり時間が経っていなかったから何もしていない。今年は祝いたかった。なので早めに何を贈るかは考えようと思う。
「奥様が贈るものなら、どのようなものでも喜ばれるのでは?」
「そういうのが一番困る」
真実ですからとゾーイは笑う。
その後閃いたのか、あっと声を上げて次に、奥様をプレゼントすればいいのです! と決め顔で言ってのけた。
リボンでもつけて私がプレゼント? 最近読んでた古いロマンス小説のネタをまま披露されても困る。ちなみに小説の中では大成功だった。
でもできれば形あるもので贈りたい。レイオンが私に沢山の贈り物をしてくれたから、全く同じとはいかないまでも、二、三用意して驚かせるのが目標だ。
「ご飯とケーキはシェフに任せるとして」
部屋食にして、二人でゆっくりご飯食べるのもありかな。オイルランタンを使えば雰囲気よさそう。
「料理できるにはできるけど……」
「きゃんぷはされないのですか?」
「それも考えたんだけど、今回はなしかな」
聖女様ブランドでテントと寝袋買って一日キャンプもよかったけど、いかんせん直近人攫いの件があったから今回はだめだと思った。レイオンも心配するし、私も落ち着かなさそうだったから尚更だ。
「でもそっか、キャンプね」
そっちで攻めればいけそうな気がする。
念のため王道のプレゼントも用意しておけば安全だし、頭の中で形になってきた。いけそう。
「ゾーイ、このことは内緒にしててね」
「はい」
そしたらすぐに行動しよう。まずはキャンプに詳しいところからだ。
「聖女様……エピシミア辺境伯夫人に手紙書くわ」
「では御用意を」
* * *
あらかじめ約束を取り付けて、準備万端で迎えたレイオンの誕生日。どうしても仕事が外せなかったので、早めの夕方から時間をもらった。
レイオンてば自分の誕生日忘れてるようで、普通に仕事入れてて焦ったけど、なんとか時間を確保してもらえてほっとする。周囲の配慮もだいぶあっただろうに。
「今日は部屋でご飯ね」
「珍しいな」
部屋には食事を用意してもらって二人で過ごすことにした。
ちょっとした装飾もしてみたり。
「……これは?」
「レイオンの誕生日」
「?」
「誕生日おめでとう」
席に座る前に王道のプレゼントから渡す。
その場で中身を出して見てもらう。
「ハンカチね」
「これはメーラが?」
「うん」
ハンカチへの刺繍は自分でやった。
貴族のご令嬢には刺繍とお茶淹れは必須だ。聖女教育でも組み込まれていたし、それ以前に祖母から早い段階で学んでいた。
聖女教育では刺繍で
「家紋か」
「うん。レイオンとこのと、安全祈願の模様交えてって形ね」
「……綺麗だ」
すり、と指先で刺繍を撫でる。
目を細めて触れる姿が嬉しそうに見えた。
糸も上等なの選んだし、普段引きこもりだから室内系の作業については問題なくこなせる。及第点はいくだろう。
「ありがとう。大事に使う」
「うん」
そのまま席に促して、一緒に豪華な夕食だ。
二人きりだから、大皿から取り分けなんてのもやってみたけど、レイオンが嫌がる素振りはなかった。
ケーキの時は聖女様自伝直伝の誕生日ソングまで歌ってクラッカーなるものも使ってみた。どうやらこの流れは聖女様曰くパリピらしい。聖女様が実際やったかは明記されてなかったけど、祝えるなら全部採用だ。
「変わった祝い方だな」
「新鮮でしょ?」
「ああ、驚いた」
無表情の中に落ち着きのなさが見えたから、本当に驚いてるんだろう。そこに不快感がないと分かると、サプライズがきいたみたいで嬉しい。さすが聖女様だ。一度送っているけど、また後で感謝の手紙を追送しよう。
「レイオン、まだプレゼントあるの」
「?」
夕食が終わればソファに移動してのんびりした時間を過ごす。レイオンと同じ形にはなるけど、プレゼントの追撃といこう。
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