第43話 だからやきもちを焼くのか
「なら、もう寝るね」
「分かった」
早すぎるけど、それぐらいしかできなかったし、心配かけないようにするには寝るしかないと思った。
服もそのまま横になると心臓の音がうるさくて眠れなくなる。
レイオンはベッド際に座り、身体をこちらに向けているだけでベッドに入ってこなかった。
「レイオン」
「ああ、ここにいる」
いつも通りにすれば寝られるだろうか。震えはもうない。それなら後はさっきあったことなんてないぐらい、いつもの日々を過ごすことが出来ればと思った。
「……着替える」
「分かった」
着替えてみることにした。
レイオンと添い寝をする時の聖女様ブランドパジャマに着替えて再び横になってみる。
「部屋を出た方がいいか?」
「ここにいて」
脱ぐなら部屋を出るというレイオンを止める。確かにこういう時こそ完全裸族でいる方が、私にとっていつも通りで安心できるスタイルなのかもしれないけど今は違う。
レイオンと添い寝をするスタイルがいつも通りになってしまった。全裸でいることだってあるけど、寝る時は聖女様ブランドパジャマの方が落ち着いてしまう。
「こっちの方が落ち着く、なんて」
「?」
すっかり変わってしまった自分に驚く。一人だった頃は、寝る時だって全裸だったのに、パジャマ着て横になるだけでひどく穏やかになれる。
「あ」
「どうした」
「寝れそう」
ベット端に座って私を覗き込んでいたレイオンが、再び部屋を出ようと腰を浮かせたのを裾を摘まんで引き留めた。
困ったように眉を八の字にして見下ろす。
「メーラ?」
「一緒に寝て」
「しかし」
先程のことを考えると男が近くにいるのは良くないと主張した。くいっと摘まんでいたシャツを引っ張る。
「レイオンは大丈夫だったでしょ」
「メーラ」
「いつもと同じがいい」
いくらかの逡巡を見せた後、自身のシャツのボタンに手を掛け脱ぎ捨てた後ベッドの中に入ってきた。
もしかしていつも通りの添い寝スタイルを意識して脱いでくれたのかな?
「ありがと」
「……辛いか?」
私の顔色がよくないのか、眉を下げてこちらを見て向かい合う。
まだ距離のある中、大きな掌が伸びてきた。
髪を撫で頬を包む。この仕草も多くなった。ベットの中で、こうして撫でて腕枕をしてくれる。
距離が近いのが当たり前になった。
「おいで」
「……ん」
何度聞いてもこの言葉は魔法だ。するりと彼の元へ行ってしまう。
より距離が近くなり背中に彼の腕が回る。
「何故ここまでするか、か」
独り言のような囁きはさっき私がきいたことだった。
「レイオン?」
「同情ではない」
「さっきも聞いた」
「もっと早くに助けたかった」
「充分だったよ」
義務でもないと呟く。それも聞いた。彼の中で私が特別になったこともだ。改めて思い返すと恥ずかしくてじわじわ熱が這い上がってくる。
「……ああ」
そうか、と溜め息まじりの独り言が紡ぎ出される。腑に落ちたような声音だった。
「どうしたの?」
「分かった」
「え?」
彼を見ようにも抱き締められていて表情は見えない。
「愛している」
「え?」
抱き締める腕に力が入り、より引き寄せられた。
「メーラを、愛している」
「え?」
好きだから側にいたい、と彼は自分に言い聞かせるように囁く。
その好きも愛してるも、家族だからではないと思える色合いだった。
「君には私の気持ちが重いかもしれない」
「そんなこと、は」
「私の言った事は気に留めなくていい。異性が苦手である事を治す方に集中して欲しい」
その先に自分への気持ちが少しでも向いているのなら、これからも側にいて欲しいと言う。ここまできて、まだ私を気遣っている。
レイオンだけは大丈夫なのだから、それが一緒にいる理由にはならないの?
「あれ?」
「メーラ?」
もしかして祖母がレイオンを愛すようにと言っていたのは、私が異性に関わることができないと分かっていて、その上で彼となら乗り越えられると踏んでいたから?
この結婚は治療目的? さすがにそこまでレイオンに対して失礼なことを考えて送り出してはいないだろうけど、その意図もなくはない気がする。
「ううん、なんでもない」
「本当に?」
「大丈夫だって」
そうだ、彼だけは大丈夫。それは何度も言ったし、実際本当にレイオンだけは触れることも話すことも側にいることもできる。彼なら触れ合える相手であると祖母は分かっていたのだろうか。
そんな私の迷いと悩みは露知らず、レイオンは一人納得したとばかりに、そうかと再び囁いた。
「だからやきもちを焼くのか」
「え、今そこ?」
たどり着いた最終地点がやきもちの相手先? 違う、そういう方向でほしい会話じゃない。
「姉の子供が近づいて君に触れてくるのが不快だった」
「そ、そう」
「フォティアを優遇することですら、納得いかなかった」
「そ、う」
うわああこれ以上はやめよ? 心臓持たないからやめよ?
「そうか、これが」
腑に落ちたことが嬉しいのか平坦な声の中に嬉しさが混じっている気がする。
「れ、レイオン!」
「どうした?」
「寝る!」
「分かった」
髪を撫でて再び腰に回される腕を拒めなかった。顔を見られなかったことだけが助かったことかもしれない。今の私の顔は真っ赤になってるもの。そんな顔は見せられない。
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