第95話 歌姫のお仕事②
しかし、人は変わる。
ユリナは麗央のことが好きで好きで堪らない。
愛するあまりに暴走も多い。
だが、こと
麗央が絡むと急にポンコツ化すると評したのはユリナと仲が良い悪友
確かに周囲の被害を一切、考慮しないあまりにも無謀な一面があるのは否定出来ない事実だった。
しかし、腐っても鯛という諺がある。
今でこそ歌姫として、麗央の妻として、自由を謳歌しているように見えるユリナだが、幼い時分より為政者たらんと君臨していた過去を持つ。
尊き血を引く姫。
不可侵の女王。
いつしか独り歩きをしていく肩書に負けじと肩肘を張っていた過去があった。
そうした要因が重なり合い、現在のユリナが形作られている。
それゆえ、未だに仕事になるとスイッチが入ったように真面目にもなるのだ。
「
「問題はなさそうだね」
「そうみたい……ね!?」
麗央はユリナが微かに表情を変化させたことに気付いた。
普通の人間であれば、気付きようがない微細な変化だった。
そして、「おや?」と不思議に思う。
ユリナが目を通しているのは特注品のスマートフォンである。
ゼノビアに渡されているのも同じモデルだった。
屋敷の外で一般人とも接する機会が多い麗央は、慎重を期して市販の物を使っている。
なぜなら、特注品は写らないモノを写せるからだ。
ユリナのような高位の純血あやかしや霊感がある者でなければ、存在を感知出来ないエーテル体の怪異などは通常の撮影機材でその姿を捉えることは困難だった。
怪異であれば、完璧と言えないまでも辛うじて、その姿を捉えられたが高位のあやかしとなるとそうはいかない。
高次元の生命体である彼らは、光の集合体といった抽象的なビジュアルでしか写せないのだ。
「これは……」
「リーナ?」
「ああ、これは……」と麗央は理解した。
ユリナはさして、表情が豊かとは言えない。
容貌が整っているだけに冷たい印象を与えかねないほどに表情の変化は乏しい部類だった。
ただし、麗央に対してはあてはまらないとやや限定的な条件が加わる。
コロコロと変わる年頃の少女らしい豊かな表情は麗央にしか、見せないものだ。
歌姫として活動している際に見せる笑顔は人を虜にさせる。
しかし、そこに心が籠っているのかと問われれば、否と答えざるを得ない。
いわゆる作った笑顔だった。
今、ユリナが浮かべている表情は麗央が偶に見かけるものだった。
微細な違いに気付けるのは麗央だけだった。
麗央は確かに類稀な洞察力や動体視力の持ち主である。
だが、それだけが理由ではなかった。
ひとえにユリナへの強い愛の強さがそうさせているとしか、思えなかった。
(何か、可愛いモノを見つけたんだな)
麗央はそう確信している。
以前、お忍びのデートでY市の動物園や水族館に行った際、ユリナが見せたものに酷似していた。
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