第87話 妃達の想い

それから数日、優希は体力を回復させる為にも、邸宅に止まっていた。

優希の力ですでに回復を遂げた妃達は、それぞれの邸宅に戻っている。

だが、優希は回復の兆しを見せずにいた。

医者は心労が祟っているのかも知れないと告げ、ただ回復を待つしかないと項垂れた。

優希の力は自分には効かない。

だから、ただ見守るしかなかった。

そんな優希の姿を、政務の合間に来ては項垂れる2人の姿があった。


しばらくして、やっと起き上がれるようになった優希の元に、妃達が赤ん坊を連れて訪ねてきた。

2人は口を揃えて、この子達の名を付けて欲しいと言って来たのだ。

そして、これまでの事を詫びてきた。

嫉妬にも似た感情を向けていた事、家紋を背負って嫁いて来たのに、優希の機嫌を損ねて追い出されはいけないと距離を置いた事、共に支えなくてはいけない立場なのに敢えて声をかけなかった事、全てに対して申し訳なかったと頭を下げた。

「優希様、私達の結婚には少なからず家紋との繋がりがあり、政治的な意味もあります。それでも、王家に忠誠を誓っている家紋として、その内に入ると決めた以上、慈しみ合う夫婦関係でなくとも、支える覚悟でまいりました。ですが、王子達が私達に向けてくれた愛情は偽りがない物・・・。例え、それが優希様が促した事だとしても、王子達がくれた言葉達に疑いを持ちたくはありません。慈悲深い王子達が心から愛している貴方の姿もまた、疑うに値しない物だと知らされました。ですから、どうか、ここに留まり、一緒に王子達を支えてもらえないでしょうか?」

真っ直ぐに優希の目を捉え、言葉を告げる2人に姿に、優希は戸惑いを隠せずにいた。

「俺が・・・憎くはないですか?俺は邪魔者で、取るに足りない人間です。何もかも貴方達に劣るのに、こんな俺を側に置いていてもいいんですか?」

「取るに足りなど・・・そんな風に思ってはいません。足りないと言うのであれば、私達の想いこそ、優希様の足元には及びません。貴方は王の為、国の為、そして王子達の為、命をかけて救ってくださった方です。冷たい仕打ちをした私達にでさえ、慈悲をくださり、王子達の子を守ろうとした・・・そんな愛の深さを持つ貴方が、誰に引けを取ると言うのですか?最初は、貴方の愛の深さに叶わないと打ちのめされましたが、そうではないと・・・あの時、ひたすらに私達を励まし力を与えてくれた貴方の姿が教えてくれたのです。勝ち負けではなく、互いを敬うのだと・・・」

2人はそっと優希の手を取ると、優しく微笑む。

その微笑みに、優希は涙を流し、ありがとうと呟いた。


その日の夜、突然王が訪問してきた。

何事かと慌てはしたものの、王の表情を見て優希は悟る。

そして、王が席につくなり、優希は深々と頭を下げた。

「色々とご迷惑をかけました」

「・・・それは、気持ちの整理がついて出ていくということか?」

その言葉に、優希は黙ったまま俯いていた。

王は小さくため息を吐く。

「息子らの件は・・・・こちらも詫びよう。すまなかった」

急に王に謝られ、優希は慌てて顔をあげる。

「王様が謝ることはないです。これは全て俺が招いた事です。自分から望んだくせに、欲張りすぎた自分が悪いんです」

「そうさせたのも息子らだ。息子らには私から叱りつけておいた」

「え?」

「すまなかった。最近、体調を崩していたとはいえ、そなたが出て行った事も妃達に言われるまで知らないでいた」

「・・・申し訳ありません」

「謝らなくていい。子供の様に欲しいと散々ねだり、手に入れた事に安堵して放置した息子らが悪い。そなたが妃達の命も子供らの命も救ってくれたと報告を受けている。だが、仲違いをしていたとは報告を受けなかった。息子達も言わなかったからな。何度もそなたには救われているのに、私らがしてることは恩を仇で返す行為だ。

王族がそうであってはならない。息子達の事を心から大切に想い、国の為に、王妃の為にそなたは命をかけた。それと同様に私らも返さねばならぬ」

「いえ・・・・俺がしたくてした事です。恩を返すという義理立てはいりません」

優希の言葉に、王はまたため息を吐く。

「もう少しだけ、息子らに時間をくれないか?息子らは幼少時は愛を受けて育ったとは言え、多感な時期に母親を亡くし、唯一の肉親である私まで息子達に愛を注げなかった。そもそもそれが原因だ。長年孤独にしてしまったせいで、愛し方も愛され方もわからないまま育ってしまった。全て私の責任だ」

「王様・・・・」

「まだ少しでも気持ちが残っているのであれば、もう少しだけ時間をくれないか?ここにいるのが辛いのであれば、王城外で住まいを用意しよう。ただ、息子達を手放すのだけは待ってくれないか?」

懇願するような眼差しに、優希は言葉を発する事なく、小さく頷くだけだった。

それを見た王は小さく礼を述べ、今後は自分が対応するとだけ言い残し、邸宅を後にした。

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放置された転生者はネガティブ王子に惚れられる 颯風 こゆき @koyuichi

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