第86話 新しい命

それから数分も経たずに、無事子供は産まれた。

それでも妃達は大量の血を流した事で、体が弱っていた為、優希は絶えず力を込めていた。

体全身を大量の汗が流れるが、一瞬も目を逸らさず、ほんの僅かな異変も漏らすまいと2人を見つめ続けた。

その甲斐もあって、少しずつ顔に色味が帯びて来た頃、優希はふと小さな笑みを溢してそのまま気を失った。


どのくらい寝ていたのか、目を開けると周りは薄暗く、ベットの側にはクロードとモーリスの姿が見えた。

「みんな、無事・・・?」

「あぁ、優希のおかげで皆、無事だ」

目を潤ませ応えるクロードに、優希は安堵の笑みを溢す。

その側で無言のまま優希を見つめていたモーリスが、そばにいたウィルに何かを託ける。

しばらくすると、赤ん坊を抱えた2人のメイドが部屋に入って来た。

「2人とも男の子だ」

そう伝えるモーリスの声に、優希は微笑む。

それぞれが自分の赤ん坊を抱いて、優希のそばに来ると、優希はその赤ん坊の表情を見て涙を流した。

「可愛いい・・・・」

優希はそう漏らしなら、交互の赤ん坊の頬を撫でる。

柔らかくて、すべすべで、それでもしっかりと温もりがある赤ん坊に涙が止まらない。

でも、嬉しそうに微笑む優希の笑みの中に、小さな影が見え、2人が声を揃え尋ねる。

「どうした?どこか痛いのか?」

「医者を呼ぶか?」

心配そうに優希を見つめる2人に、優希は首を振り、ぽそりと呟いた。

「赤ん坊はこんなに愛らしいのに、どうして俺は捨てられたんだろう・・・」

その呟きに、2人は言葉を噤む。

すると、すぐに優希は慌てて言葉を繋いだ。

「こんないい日に暗い事を言ってごめんなさい。きっと、やむ負えない事情があったと思います。それに、俺もこの子達みたいに可愛かったから、俺の母親も離れる時はきっと泣いてくれたと思います」

そう言って明るく微笑む優希に、2人は何も言えずにただただ優希を見つめた。


「優希、まだ帰ってこないつもりか?」

子供達が別の部屋に運ばれたのを見届けた後、ポツリとクロードが尋ねた。

優希はその問いかけに、まだ悩んでいる自分がいる事で言葉を返せなかった。

「俺達があまりにも軽率だった。優希にわがままを言って欲しいと言いながら、言葉を噤ませてしまった」

モーリスもまた、暗い表情でそう呟く。

そんな2人に、優希は大きなため息をついて口を開いた。

「2人はもう父親なんですよ。そんな情けない顔をしないでください」

「だが・・・」

声を揃えて返事を返すも、2人は俯いたまま、また口を閉ざした。

「はぁ・・・じゃあ、これから俺は愚痴ります。だから、2人は黙って聞いてください」

優希の言葉に、2人は顔を上げ、頷く。


「まずですね、俺との結婚はいつになるんですか!?」

急に声を荒げて話し出す優希に、2人は目を丸くして驚く。

「いくら絆が強いからって、結婚式も懐妊も、出産まで一緒とかありえないでしょ!?おかげでどんどん俺は置いてけぼりです!たださえ、2人に会える時間が減って寂しい思いをしてるのに、あんまりです!」

優希は怒りを体で表すように、拳を作り、手をブンブン振り回す。

「俺は妃達と違って教養もありません。妃としての器量もありません。それに、子供を産む事だって出来ません。なのに、宙ぶらりんの立場のままでは、肩身が狭いんです!第一、2人が俺に甘いせいで、俺の妃としての勉強はおざなりで、ずっとウィルさんに頼るしかなかった。それでも、限界があるんです!」

「すまない・・・。優希は国の為にしてる仕事が多いから、少しでも負担を減らしたくて、配慮したつもりだった」

モーリスの言葉に、クロードが相槌を打つが、優希はキッと2人を睨みつける。

「黙って聞いて欲しいと言いました!」

「す、すまない・・・」

「確かにこれは俺が望んだ事です!でも、2人が言ったんですよ?俺にわがまま言って愛を欲しがって欲しいと・・・・俺は2人の何なんですか?お飾りですか?気が向いた時に来て愛でるおもちゃですか?こんな風に置き去りにするなら、あの時・・・俺が出て行くって言った時に、引き留めて欲しくなかった。こうなるのが怖くて、情けない自分を、醜い気持ちを持つ自分を見たくなくて、それで出ていきたかったのに・・・酷すぎます」

言葉尻が涙が混じる。それでも、優希は言葉を止めなかった。

「お二人は、俺が望んだ一の愛情すらくれないんです。こんなの愛してるとは言いません。二度と口にしないで下さい!元々おかしかったんです・・・2人と結婚なんて・・・俺は・・・俺はここを出ます!」

そう言葉を投げつけて、優希は疲れたから出て行ってと2人に言い残し、布団を頭まで被ると、小さな声を漏らし泣き始めた。

2人は項垂れたまま言葉を返す事もなく、静かに部屋を出ていった・・・。

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