第31話:愚者の現実




 スティーグが王家の影に拘束された。

 正確には殺されそうになったのだが……。


 フェデリーカをベッドへ組み敷いた瞬間、フェデリーカの上から吹っ飛び、保健室の壁へと激突した。

 痛みと衝撃で動けずに壁にもたれて座り込んでいるスティーグの前に、やたらと良い笑顔の青年がしゃがみ込んだ。


「清々しいくらいの屑だね、ゴミ屑。仕事じゃなかったらせるのに」

「な!?」

 馬鹿にされたスティーグがいきどおって文句を言おうとするが、直ぐに口を閉じた。

 首元に暗器ナイフの刃が当てられたからだ。

にはせないが、社会的に抹殺されるが良い」

 保健室の中が騒がしくなり、そして直ぐに静かになった。


「フェ……」

 フェデリーカを呼ぼうとスティーグが口を開くと、目の前の青年からブワリと殺気が膨らんだ。

「何をしようとしているのかな?まさか、犯そうとした相手に助けを求めるとか?いやいや、無い無い。さすがにそこまで厚顔無恥じゃ無いよねぇ~?」

 目と口を弓形ゆみなりに歪めて笑っているが、青年から発せられる殺気に変化は無い。


 まるで仮面のようだと、スティーグは青年の顔を眺めた。



 その後、オズヴァルドの声が聞こえ、スティーグは無理矢理立たされて歩かされ、フェデリーカ達の前にみじめにも脅されて泣きそうになっている姿を晒した。

 更に教師が現れ、人が集まる廊下を拘束されたまま歩いた。


 スティーグ達は親が呼ばれると思っていたようだが、呼ばれたのは近衛騎士だった。

 衛兵ですらなく、一足いっそく飛びで王家へ報告が行ってしまったのだ。


 衛兵から家に連絡が行き、親と共に帰宅。

 自宅謹慎を数日。

 衛兵が捜査し、証拠を集める「密室なので何も判りませんでした」と報告されて終わり……のはずだったのに。

 学校内の警備や、その地域管轄の衛兵は買収済だった。




「悪質だよね。女性を傷モノにして自分以外に嫁げないようにするなんて」

 拘束は解かれていたが、近衛兵に囲まれてスティーグ達は椅子に座らされていた。

 椅子と言うより、公園などにある木で出来たベンチである。


 スティーグ達が連れて行かれたのは、王宮内でも重罪人を取り調べる窓も無い部屋だった。

 しかも壁も床も天井さえも石造りで、唯一の明かりが松明のみだ。

 その劣悪な環境に、連れて来られたスティーグ達の親が憤慨する。


「侯爵家の嫡男を、こんな部屋に押し込めるとは何事だ!」

 部屋に1歩入って第一声、そう叫んだベッラノーヴァ侯爵は、目の前に居る人物が誰だか把握していない。

 他の親達も似たり寄ったりで、侯爵が一緒なら大丈夫だろうと思っているのが透けて見えた。



「それは僕も嫌だけど、この映像が外部に漏れたら困るからね」

 年若い声に、誰かが「誰だ?あの若造は」と呟く。

 呟いた者の喉元に、近衛騎士の剣が向けられた。

「第三王子殿下に向かって不敬であろう」

 その声の低さに、その内容に、親達は暗い部屋の中へ目を凝らした。


 広さだけはあり、既にスティーグ達を含め20人以上が室内に居た。

 松明の明かりが部屋の隅まで届いていなかったせいで状況把握が出来ていなかったが、その部屋の様相は、完全に法廷だった。


 真正面の男性が木槌ガベルを打ち鳴らす。

「静粛に。これから臨時貴族裁判を行う。皆、席に着きなさい」

 親達は有無を言わさず、傍聴人の席らしき場所へ座らされた。



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