第16話:婚約破棄1




 ティツィアーノ伯爵邸に招かれたベッラノーヴァ侯爵家の面々は、馬車を降りた瞬間から横柄だった。

 入学式当日にスティーグがカーラをエスコートした件で、フランチェスコがベッラノーヴァ邸を訪ねて以来、初めての会合だった。


 応接室へ通されたベッラノーヴァ侯爵夫妻とスティーグは、ティツィアーノ伯爵夫妻しか居ない事に気が付き、不機嫌になる。

「何だ、ここの娘は婚約者の家族を出迎えもせんのか!」

 ベッラノーヴァ侯爵が声を荒らげるが、デルフィーナが音を立てて扇を広げると、その雰囲気に気圧されて口を閉じた。


「その婚約ですが、どうやらご子息はカルカテルラ子爵家と結んだつもりのようなのでね。ティツィアーノ伯爵家としては、破棄したいと思ってますよ」

 フランチェスコは笑顔を貼り付けた顔で、ベッラノーヴァ侯爵へと話す。

「アレは遠縁の娘で、うちには行儀見習いに来ているだけだと、前回も説明しただろうが」

 呆れたようにベッラノーヴァ侯爵は話すが、隣のスティーグの顔が一瞬強張こわばる。


「おや、学校ではその子爵令嬢が婚約者のように振舞っていると聞いておりますが?」

 フランチェスコの笑みが深まる。

「とりあえず本人を呼んで話を聞くべきでしょう?」

 ベッラノーヴァ侯爵夫人が高飛車に言うその顔には、どこか余裕がある。


 それもそのはず。

 スティーグから学校内の様子を聞いていたからだ。

 スティーグの話では、フェデリーカはカーラの存在を認めているとの事だった。

 しかもフェデリーカ自身も不貞をして、常に男と一緒に行動しているとも聞いていた。



「そうですね。この際、しっかりと話を詰めましょうか」

 フランチェスコは視線を入り口付近へ向け、小さく頷いて見せた。

 扉付近で控えていた執事に、子供達を呼びに行かせたのだ。

 頷き返した執事は、扉を出て行った。


 すぐにノックの音がする。

 室内の全員の視線が扉へとそそがれる。

「入りなさい」

 フランチェスコの声と共に開かれた扉から入って来たのは、フェデリーカとオズヴァルドだった。


「何だ!そっちだって不貞相手を屋敷に住まわしているじゃないか!」

 オズヴァルドを見たスティーグが勝ち誇ったように立ち上がり、大きな声を出す。

 しかしオズヴァルドの後ろにアレッサンドロが続くと、「は?」と眉間に皺を寄せた。



「紹介します。長男のアレッサンドロ、次男のオズヴァルド、そして長女のフェデリーカです」

 似ていない三人は、そうと言われなければ家族に見えない。

 軽く会釈をした三人は、両親の側へと移動した。

 五人揃うと、確かに家族だと納得出来た。


 父親似のフェデリーカ、母親似のアレッサンドロ、そして母親の父に似ているオズヴァルドは、目元だけはデルフィーナに似ていた。


 スティーグが固まり、その顔色が見る見る悪くなっていく。

 やっと自分の馬鹿な考え、愚かな行動に気が付いたのだ。

 婚約者とその兄の前で、堂々と恋人と睦みあっていたのだ。

 お互い不貞していたのでは無い。

 不貞を犯していたのは、スティーグだけだった。



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