第2話:事件はすぐに起きた




 入学式当日。

 次男のオズヴァルドは在校生の為先に学校へ向かったので、長男のアレッサンドロがフェデリーカの付き添いとして一緒に学園へ向かった。

 馬車の中で、アレッサンドロが首を傾げる。

「婚約者のエスコートがあると申請すれば、入学式の日は大丈夫なはずなのだが」


 そう。

 フェデリーカの婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァ侯爵令息が、時間になっても迎えに来なかったのだ。


「急に決まった婚約だから申請が間に合わなかったとか」

 フェデリーカがスティーグを庇うような発言をする。

「そうかもな」

 アレッサンドロは一応の同意を示したが、前日の申請でも大丈夫な事を卒業生ゆえに知っていた。




 入学式が始まり、新入生がエスコートをされて入場する。

 まだクラス分けはされておらず、低位貴族からの入場となる。

 広い控室の中は、殆どが伯爵家である。

 男爵家は入場の為に既に会場へ向かっているし、侯爵家以上はまた別の控室だからだ。


「あれ?」

 フェデリーカが不思議そうな声を出す。

「どうかしたか?」

 アレッサンドロが問い掛けると、「いえ、何でも無いです」と首を傾げながら答える。

 それでも視線は出口へと向いたままだった。

 なぜなら、入場の為に控室を出て行った子爵令嬢のエスコートをしていたのが、自分の婚約者のスティーグによく似ていたからだった。



 指定された席までエスコートされ、そのままフェデリーカは席に座り、アレッサンドロは保護者席に移動した。

 保護者席で両親と合流したアレッサンドロは、顔を真っ赤にしている父フランチェスコと、扇の下で薄く笑っている母デルフィーナに驚く。


「ティツィアーノ家も随分と舐められたものだ」

 絞り出すように声を出すフランチェスコの目はわっている。

 何があったのかと聞こうとアレッサンドロが母親に視線を向けるが、扇で顔半分を隠され、会話する気が無いとの意思表示をされてしまった。


 何が何だか判らないアレッサンドロが会場へ視線を動かすと、在校生席のオズヴァルドが目に入った。

 凄い形相で睨んでいる先は、フェデリーカの婚約者であるスティーグだった。

「本当に何があったんだ?」

 両親の隣に座りながら、アレッサンドロは一人困惑していた。




 入学式が終わり、フェデリーカは前もって連絡の来ていた自分のクラスへと向かう。

 その途中で幼馴染のロザリア・ベルティネッリ伯爵令嬢と合流した。

「フェディ!同じクラスで良かったわ」

「リア!1年間よろしくね」

 二人で仲良く並んで教室へ入ると、既にいくつかグループが出来ていた。


 そのうちのひとつ、妙に大きな声で話す一団があった。

「凄いわ、カーラ様の婚約者は侯爵家なのね!」

「見た目も良くて家柄も良いなんて、最高よね」

「子爵令嬢でも愛があれば侯爵家へ嫁げるのね」


 他の生徒を牽制しているのか、女子生徒の中での主導権を握ろうとしているのか、とにかく周りに聞かせるように話しているのだとすぐに判った。

「慣れない権力に溺れて、みっともないわぁ」

 ロザリアが呟く。

 ロザリアの婚約者は公爵家嫡男であるが、それをひけらかしたことは無い。


「そうね。子爵令嬢と言っていたし、ちょっと教育が……」

 そこまでフェデリーカが言ったところで、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。


「スティーグ様は、ベッラノーヴァ侯爵家の後継者ですもの」

 フェデリーカは、得意気に自分の婚約者の名前を口にした令嬢へ視線を向けた。



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