第67話 現状把握とエリカとのデート

数日後


「では、授業はここまでだ」


 ノルン先生による理論の授業が終わり、俺とパーティメンバー3人(エリカ、レイナ王女殿下、ルナ)は一緒に教室を出た


 エリカは血の戦姫であるエリアさんの娘でレイナ王女殿下とルナは作中におけるヒロインである。


 廊下を歩くだけでどうやら俺たちは目立つみたいだ。


 周りの生徒たちが俺たちをみてコソコソ話している。


 カールに転生する前の俺は友達がほぼいないぼっち高校生だった。

 

 金髪の陽キャ男子がギャルや綺麗な女の子と楽しく話しながら廊下を歩く姿は飽きるほど見てきたな。


 カラオケに行くだの、自分の家に行くだの、そんなリア充人生を満喫する彼ら彼女らを離れたところから見ることしかできなかったが、こうやって4人並んで歩くと嬉しい気持ちが湧いてくる。


 しかし、こんな平和を手に入れるために血のにじむ努力が必要だった。

 

 あと


 俺にはまだやらないといけないことがある。


 俺は原作ストーリー上、破滅フラグを迎え死ぬことが確定している。フランだって同じだ。


 マジック★トラップ一部の主人公であるベルと、二部の悪役であるフランが変な気を起こして悲劇が起こる可能性はまだ残っている。


 それに、まだ原作ストーリーは終わったわけじゃない。


 3部がまだ残っている。


 まあ、3部の話は後で考えるとして、とりあえずベルとフランの状況確認が先だ。


 なので、俺は一部のメインヒロインであるルナに声をかけた。


「ルナ」

「はい?」

「ベルって最近どんな感じ?」

「ベルですね……ん……」


 ルナは急にくらい表情をして俯いた。


「ど、どうした?」

「それが……結構落ち込んでいて……」

「落ち込んでる?」

「はい。その……自分はパーティーに全然役に立たないとか言って……」

「そ、そうか」


 確かにベルは聖属性の生徒を除けばここSSクラスの中で最も弱い。


「最近はSクラスとかAクラスの人からも決闘試合を申し込まれることが多くて……なんとか勝負には勝ちましたが、もし負けたらSクラスに下がる可能性もありますから……」

「そんなことがあったのか……最近忙しかったから全然気づけなかった」


 なるほど。


 やつは見た目も性格も主人公丸出しだ。


 本来、悪役である俺を倒す過程で強くなり、みんなを巻き込んでハーレムを味わう役目がある。


 だが、その役目自体を潰した時点で、ベルは単なる弱くてうざいキャラだ。


「元気になるといいんですけど……」


 水玉色の長い髪を揺らし、物憂げな顔をするルナは実に切ない。


 正直に言って、今のベルにルナは釣り合わない。


 とりあえず、ベルの状況は良くない。

 

 あとはフランだな。


 あいつには本当に幸せになって欲しいんだが……


 でも、カサンドラとフランか……

 

 正直に言ってちょっと不安ではある。

 

 と思っていると、


「フランさん!!フランさん!!どうして逃げますの?放課後はずっと私とデートですわよ!!」

「……」


 血の気が引いたフランは猛烈な勢いで追いかけてくるカサンドラから逃げるために必死に足を動かした。


「フラン……」

「か、カール先輩!エリカ先輩!」


 フランは俺たちの方にやってきて俺の後ろに隠れた。


 俺の太ももをぎゅっと握りしめてブルブルと体を震わせるフラン。


 やがてカサンドラが来て目を輝かせる。


「フランさん!いつもみたい楽しく遊びましょう!」

「いいい、いや……カサンドラ様……僕はそそそそその……無理です……」

「フランさんは私の婚約者ですわ!もっと私たちの輝かしい姿を見せましょう!」

「ううう……」


 フランのやつ、めっちゃビビってる。


 まあ、カサンドラの顔を見たらなぜこんなに怯えているか丸わかりだがな。


 カサンドラは末っ子でこれまでお兄さんからたっぷり愛をもらってきた。


 つまり、カサンドラは愛を渇望している。


 お兄さんの本性を知ってしまったことによりポッカリ穴が空いてしまった心をフランの愛で埋めようとしている魂胆だろう。


 俺はカサンドラに向かって口角を吊り上げて口を開いた。


「カサンドラちゃん」

「は、はい!カールさん!」

「そんなにアタックしまくると、フランに嫌われるぞ」

「なっ!嫌われるんですって!?」


 カサンドラは口をぽかんと開けて、両手で自分の頭を抱える。

 

 すると、エリカが口を開く。


「そうよ。確かに自分の気持ちをぶつけることは大事だけど、フランはとても繊細な子なの。婚約者同士なら相手の気持ちを察することも大事だと思うのよね」

「え、エリカさんまで……ううう……フランさん、私を嫌いにならないで……私、なんでもするからお願い……私を嫌いになっちゃいや……」


 カサンドラが急に地べたに座り込んで泣き出した。


「「……」」

  

 俺のパーティーメンバーは固まってしまった。


 これはこれで問題だな。


 結局、俺とエリカはレイナ王女殿下とルナに断りを入れて、フランとカサンドラを人気の少ないところにつれて行って、あやした。


 今日は俺たちパーティーメンバーの会議があるのだが、日を改めることにした。


X X X



 部屋に着いた俺はベッドに飛び込んでそのまま枕に顔を埋めた。


「ぶああ!疲れた」

 

 俺とエリカは婚約関係になったばかりのフランとカサンドラに、手取り足取り男女関係について説明した。


 フランとカサンドラは両方ともとても辛い過去を持っており、ケアが必要な部類の子らだ。


 放っておけばうまくいくと踏んだ俺の考えが甘かった。


「忙しかったわね」


 エリカが俺のベッドに腰をかけて話しかけた。


 ティアナとスカロンくんはドアの外で待機中である。

 

「ごめん。俺のせいでエリカを苦労させちまった」

「ううん。そんなことないの。私、カールと一緒だからとても楽しいわ!」

「そう言ってくれて助かる」

「カール」

「ん?」

「その枕で足りるの?」

「あ、あははは」


 エリカは俺の隣で横になり、俺はエリカの豊満な胸に顔を埋めた。


 本当に天国すぎる。


 一日の疲れが吹き飛ぶ気分だ。


 この世に存在するものとは思えない感触……

 

 そういえば、これまで破滅フラグを回避したり、回避させるためにひたすら走ってきた気がする。


 エリカは周りに翻弄されながらも俺になんの文句も言わずに助けてくれている。


 本当にいい子だ。


 エリカを見ているだけでも頑張れる気がしてきた。


 最近は二人だけの時間が足りない。


 実は、寮長から何度か注意を受けている。


 婚約したはいいが、愛情表現が激しいと。


 エリカはボルジア家の血を継いでいるせいで、とても積極的でスキンシップが大好きで、性に対して好奇心旺盛である。


 今は二人きりだが、寮長がまたいつくるかわかったもんじゃない。


 ティアナとスカロンを待機させるのも気が咎める。


「エリカ」

「何?」

「明日休みだから、王都でデートでもしようか。二人きりで。私服着てな」


 エリカの胸を堪能しながらいうと、


「カールと二人きりで私服デート……ああ……最高……だいしゅき……しようしよう!ふふん♫」


 エリカは嬉々としながら、答えたのち俺をとても強く抱きしめた。

 

「エリカ……息ができない……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る