第37話 ボルジア家の領内で何が起きているのか

 ボルジア家の領内にある巨大な商会。

 

 ボルジア家の敷地は他の貴族家と比べたら実に広大である。


 イラス王国軍部のトップにして諸外国の軍を取り仕切る総司令官であるエイラは数多くの戦争でいつも大活躍してきた。


 なのでイラス王国の領土は広がり、その度、王室はすでに所有しているボルジア家近辺の土地をエイラに与えてきた。


 大きければなんでも良いと考えるエイラは、とにかく機会があれば領土をもらい、領地を広め続けてきた。


 その中には訓練用に適した荒地もあるが、魔石や魔道具の材料となる鉱物が取れる鉱山や農業に適した肥沃な土地も存在する。


 なので、ボルジア家の人だけでこの広すぎる領土を管理することは不可能に近く、領民の中で頭のキレる商人たちをかき集め、そのものたちに管理を任せている。


 ボルジア家の命令を受けた商人たちは、ボルジア家の領土で採れた鉱物や農産物などを正確に記録し、領内の人々がそれらを売ることで得た収益を報告しないといけない。


 そして、その収益からイラス王国の税法が定める税率とボルジア家が定めた負担率をかけた金額を必ずボルジア家に納めないといけない。


 イラス王国へ払う税金はそのままイラス王国を運営するための資金となるため、この作業は極めて重要と言えよう。


 だが、

 

 文を侮ってバカにするエリアのことだ。


「ぶっへへへへ!!!!やっぱりボルジア家は最高だぜ!」

「ふふ、おっしゃる通りでございますぞ」


 貴族と思しき服装をした太った貴族と、貴族ではないが、とても高そうな服を着ている髭を生やした商人はほくそ笑んでいた。


「それで、この調子なら今回もボルジア家に係るの件はうまくいくのかね?」

「もちろんでございます。いつも通りですぞ」

「うっひひひ!」


 商人が目で笑いながらいうと、貴族は豚のような笑い方で笑う。


 年間報告書。


 これは領土を持つ貴族に王室への提出が義務付けられている極めて重要な書類である。


 領土の情報、大きさ、特性、民の数、鉱物や農作物の生産状況、決算など、王室側が領土の状況を正確に把握できる内容を含んでいる。


 税金や負担金も併せて、この年間報告書の元となる一次資料も、商人たちの役割と言えよう。


 だが、ボルジア家の商人たちはちゃんとした情報をボルジア家に提供していない。


 鉱物と農作物の生産量をわざと少なく報告したり、領民の数を少なくしたり、収益を隠蔽して、本来ボルジア家とイラス王国へ払うべき金をピンハネして莫大な富をこの商人は蓄積している。


 そして、豚のような笑い声をあげる貴族は貴族派のもので、二人は癒着関係にある。


 豚貴族は笑うのをやめ、若干心配そうに視線を左右にやってから口を開く。


「ところで、一つ心配事がある」

「ん?なんでしょうか?」

「アーロン宰相だ」

「ほお」

「あの方はとても賢く、誰彼構わず容赦がないんだ。この前、オルビス魔法学園に務める貴族派のダンジョン鑑定士が捕まって厳しく取り調べを受けている」

「おお、それは初耳ですぞ」


 髭を触りながら興味深げに視線で続きを促す商人。


「最近起きたことだからな。もし、アーロン様の前の宰相だったら、もみ消しもできたはずだが……これでますます貴族派の肩身も狭くなってくる」

「つまり、アーロン様は貴族派の方々と私にとって邪魔ということですな」

「確かにその通りだが、言葉をちょっとは慎んだ方がいいぞ」


 太った貴族派は周囲を見回して、誰もいないことを確信し、安堵のため息をつく。


 その貴族を見て髭の商人は立ち上がって自信満々にムンと胸を逸らした。


「クラウス様!ご心配には及ませぬぞ!この私・デニスの手にかかればなんてことございません!どうして心配をされているのですか?」

「ほお、自信満々だな」

「当然です!私はずっと長年、このボルジア家の領土を見てきました。いくら頭が良くても、アーロン様が私がこれまでしてきた仕掛けなんか見抜くことなどできません。全てのリスクは分散させておりますので」

「まあ、リスクヘッジはデニス、君の得意分野だもんだ」

「はい。それに、ご承知のようにエイラ様とアーロン様は犬猿の仲でございます。もし、年間報告書の件でアーロン様がエイラ様に指摘をされたら、エイラ様が黙っているとお思いですか?つまり、図らずも私たちはボルジア家によって守られているんですよ!」


 まるで何かに取り憑かれたように異端宗教の教主じみた視線を向けてくる商人であるデニスに豚貴族クラウスはまた気持ち悪く笑い始める。


「うっひひひひ!!!そうだ。デニス、君の言う通りだ!うっっっっっひひひひ!!」

「だからご安心ください。全てがうまくいきますから」

「そうだな。お前らと貴族派の者たちが長年時間をかけて、ハミルトン家とボルジア家を仲違いさせてきた甲斐があったな!!」

「そうでございます!もうすぐ私たちの時代がやってきますぞ!」

「ああ。そうだ。いくらアーロン様が宰相になっても、金は俺たちのものだ。金を持っている以上、機会はいくらでも訪れる」

「クラウス様、もしアーロン様が貴族派にとって深刻な脅威となるのなら言ってください。私がいたしましょう」

「いや、そこまでしなくても、君の息子は没落寸前の貴族派の伯爵家の長女と結婚できるから安心してくれ」

「それはどうも」

「にしてもここは平和だな」

「まあ、ボルジア家の強い方々が守ってくれてますからね。恐らくイラス王国の中で治安は最もいい方だと自負しますよ」

「本当に武に関しては完璧な方々だが……」

「それ以外のところが……」


 二人は再びほくそ笑んでお茶を楽しんでいる。




追記



これからアーロン様とエイラ様の絡みを楽しみましょう!


イラス王国の中には小さな部族国家が多く、同盟ではありません。

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