第23話 認められる婚約者、そして主人公の葛藤

 別に気にするような状況ではない。


 やつは弱小国ベルカ王国出身の伯爵家の三男だ。


 俺はもうキモデブでもないわけだし、エリカという素敵な婚約者までいる。


 気にしすぎだ。


「……」


 俺は彼から目を逸らして、ため息をして気を紛らす。


 だが


『カール!悪であるお前に裁きの鉄槌を下してやる!!!』

『ブッヒ!!!!俺は……俺は悪くない!!悪いのは……悪いのはお前だああ!!』

『なに馬鹿なことを!諸悪の根源はお前だ!!!』

『ああああ!!!お前が今までやってきたことが全て正しいと思うのか?キモデブの俺を利用して……踏み台にして成り上がっただけだ!』


 強くなったベルの攻撃を食らって派手に散る時にキモデブのカールは卑屈な表情で主人公に意味ありげなセリフを言った。


 ゲームをプレーしたときは「こいつなに言ってんだ」みたいなスタンスだった。


 だが、昔のカールの記憶をそのまま引き継いでいて尚且つ原作知識がある状態でこいつを見ていると、なぜかキモデブのカールが発した最後のセリフをなんとなく理解できる。


「はあ……」


 俺にはやらないといけないことがいっぱいある。


 いずれ登場するであろう悪役たちが悪さをしないように動いてここイラス王国が平和な国であり続けるようにしなければならない。


 最後はスローライフ満喫だ。


 つまり、


 俺はもっと強くならなければならない。


 そう思っていると


「次はカール」


 ノルン先生が腕を組んで興味深そうな面持ちで俺を呼んだ。


 どうやら俺の番のようだ。


 なので俺は立ち上がった。


 そしたら、全員の視線が俺の顔や体に集まる。


 ことにレイナ王女殿下の視線がとても熱い。


 金髪ドリルのカサンドラの姉であるカトリナもメガネをかけ直して俺を興味深く見つめている。


 なので俺は口を開いた。


「俺はカール・デ・ハミルトン。ハミルトン家の長男だ。よろしく」


 こんな自己紹介はなるべく簡潔にすることが大事だ。


 そもそも転生前の俺と昔のカールはベルみたいな陽キャっぽい人間ではない。

 

 言い終えた俺が座ろうとすると、急にレイナ王女陛下が手をあげた。


「カールさん」

「レイナ王女殿下?」


 レイナ王女殿下は微笑みまじりにピンク色の髪を色っぽくかき上げて言う。


「以前お会いした時とは大違いですね。とてもイケメンで素敵です」


 以前お会いしたと?


 昔のカールの記憶を探れば、パーティー会場で何回か顔を合わせたことくらいかな。


 別に俺たちは二人であったりしたしたことはない。


「あ、ああ……はい。ありがとうございます」

「ダイエットでもされたんですか?」

「そうですね。太り過ぎは健康に悪いし、一年かけて主にサッカーをしながら体重を減らしました」

「サッカー?」


 あ、そういえばこの世界でサッカーを知る者はハミルトン家の人とボルジア家の人だけだ。


「運動です」

「なるほど……格好よくなったカールさんにあえて嬉しいです。ふふ」

「は、はい」


 なんか妙な雰囲気だ。


 エリカがちょっと気まずそうにレイナ王女殿下をチラチラ見ている。

  

 俺が座ると、ノルン先生が俺の顔に穴が開くほど見つめてきた。


 無表上のままジロジロ見てくんだよ。


 やがて、ノルン先生はメガネをかけ直して口を開く。


「エリカで最後だ」


 ノルン先生に言われたエリカが立ち上がる。

 

 すると、今度は男性陣たちが口をぽかんと開けてぼーっとなっている。


 まあ、理解できるよ。


 エリカはメインヒロインであるルナと比べても同レベルだ。


 外観だけじゃない。


 ストレートな性格も本当にグッとくるんだよな。


「私の名はエリカ・デ・ボルジア。ボルジア家の次女よ。みんな、よろしくね」


 巨大なマシュマロに右手を添えては胸を少し反らし、自信満々な様子をアピールしている。


 実にエリカらしい。


 もちろん反応は、


「あのボルジア家の次女だと!?」

「きっと同じ名前を持つ他国からやってきた人だよ思ってたのに……」

「カール様と同じくダイエットをされたのかな?」

「信じられない……良くない噂しか聞いてなくて……」

「武を代表するボルジア家の次女であんなに美しいのに、どうしてパーティーなどに参加してご自分の姿を見せなかったかしら……」


 制服を着ている赤髪の美少女があのエリカだということを知り、イラス王国出身の学生たちは混乱する。

 

 そして、他国からきたものはただただ彼女の美貌に見惚れているようだった。


 ルナの時よりも反応は熱かった。


 だって、あのエイラさんの娘だ。

 

 エイラさんは国際連合軍の総司令官であり、イラス王国軍を取り仕切る軍部のトップだ。


 数多くの戦争に参加し、戦争の女神の権化と彼女を崇める人は多い。


 もちろんゲームのストーリーだとエリカもキモデブであるため、みんなは冷めた視線を送ってくる。


 女性は嘲りの視線、男性は嫌悪の視線。


 だけど、今のエリカはエイラさんから引き継いだ美を100%以上見せつけている。


 圧倒されるみんな。


 なんか、自分の婚約者が認められるのって、俺までもが気分が良くなる。


 これまでずっと興味なさそうだったガードが高そうなロングブラック髪のナオミもエリカに興味を示している。


 レイナ王女殿下は、


「……」


 唇を噛み締めて、罪悪感に苦しむ罪人のように、エリカを見たのち顔を俯かせた。


 気になるのは


 ベルだ。


 やつは悔しそうにエリカを見つめている。


 まあ、理由はわからんでもない。

 

 やつの兄は、エイラさんによって殺されたんだ。

 

 でも、それとこれは別問題。


 自己紹介が終わり、ノルン先生から授業に関わる説明を聞いたのち、今日の授業が終わった。


 パーティーメンバーを決めるのは明日やるらしい。


 なので、俺とエリカは一緒にクラスを出ようとした。


 すると、


「ちょっと待ってください!」

「「ん?」」

 

 俺たちを呼び止めた人がいて振り返って見たら、そこには主人公とメインヒロインがいた。


 俺は顔を顰めて言う。


「なんだ」

 

 すると、ルナが申し訳なさそうに口を開いた。


「さっきはベルがご迷惑をかけてしまってすみません!ほら、ベル、謝って」

「……」


 ルナが頭を下げて謝ってきた。


 しかし、ベルは


 俺の顔を見て、握り拳を作っては目を背けてエリカに視線を送る。


 それから頭を左右に降り、早足でクラスを出た。


「ベル!?」

 

 本当にわけのわからいやつだ。


 俺は短くため息をついていると、ルナが言う。


「すみません!すみません!ベルは元々こういう人じゃないんですけど、一体なんなの……」


 不安がるルナ。

 

 俺は淡々という。


「話が終わったなら、俺たちはいく。どけ」


 というと、慌てるルナが口を開く。


「ああ、あの……一つだけ質問がありますけど」

「はあ?今度はなんだ?」


 この前に警告したはずだが、なんで絡んでくるんだろう。


「そ、その……カール様とエリカ様はお付き合いされているんですか?」


 質問の意図が全くわからなかった。


 でも、いい機会だ。


 俺たちが婚約したのって、まだ公にしていない。


 だから言ってやるのもありだな。



「ああ。エリカは俺の婚約者だ」



「「「」」」


 クラスにいる学生(イラス王国出身)が大声で叫んだ。


 びっくりした俺とエリカは周辺を見渡す。


 すると衝撃を受けたように頭を抱えて、「これはあり得ない」だの「嘘」だの俺たちが婚約している事実を受け入れられない人がほとんどだ。


「馬鹿な……カールとエリカが婚約だと?確か妹の話だと三日前のアーロン公爵様はエイラ公爵様を近いうちに必ず潰すとかおっしゃってたのに……」


 ノルン先生が当惑したように何かを呟くが、ちゃんと聞こえない。


 エリカは目を輝かせながら俺に自分の腕を当ててきた。


 どうやら俺がみんなの前でエリカは俺の婚約者である事を打ち明けたのが嬉しいようだ。


 身内同士で知るのと赤の他人が知るのとじゃやっぱり意味合いが違ってくる。


 まあ、勉強とか魔法研究で頭がいっぱいだったからパーティーとかに行く時間がなかっただけだけどな。


 クラスでイチャイチャするのはダメだから、あとてたっぷり可愛がってやろうではないか。


「いくか」

「うん!」


X X X


ルナside


「ベル!どうしたの?」

「……」

「今日のベルは変よ。入学式の時からずっとカール様のことを睨んだりして、カール様、機嫌悪くなったよ」


 廊下を歩いている二人。


 男たちが通りすがりにルナの美貌を見て嘆息を漏らす。


 ベルは唇を噛み締めたのち、深々とため息をついては口を開く。


「ルナのいう通りだ。カールという男は何も悪いことしてない」

「だったらなんで?」

「……」


 ベルは顔を俯かせて、今日のことを思い返してみる。


 今日初めてカールという男を見た。

 

 引き締まった体、整った目鼻立ち、そこそこある身長……などなど


 見た目に関してはイケメンその一言に尽きるが、


 なぜか、


 彼の顔を見た途端、


 200kgは優に超えそうなキモデブがルナを犯している幻がまるでフラッシュバックするように鮮明に頭に浮かんでくる。


『ぶっひっひっひ!ベルは他の女の子とやりまくりだ。だからその心の隙間、俺の身体と精神魔法で埋め尽くしてやろう!ぶううっひっひっひ!!!』


 あまりにもリアルすぎる光景と声にベルは鳥肌がたった。


 そして驚く事に、


 ルナを襲うキモデブはだんだん姿が変わり、


 イケメンのカールになっていた。


「っ!!」

「ベル?どうした?」

「なんでもない」

「明日のパーティーメンバー決め、同じパーティーになるといいね!」

「あ、ああ。そうだな」


 ベルは後ろ髪を引っ掻いて気まずそうに顔を視線を外す。


「ちゃんとカール様に謝ってね」

「……」


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