第16話 エリカの属性魔法とヤンデレカリン

エリカside

 

 エリカの一日は忙しい。


 カールと婚約したからといっておちおちできない。


 目の前には大きな目標が二つもある。


 属性魔法と体の鍛錬。


 オルビス魔法学園への入学。


 エリカは力属性に目醒めた。


 力属性と言ってもいろんな種類が存在する。


 自分の体を圧倒的に強くすることもできるし、パーティー構成員にパッシブスキルをかけて防御力や攻撃力を上げることもできる。


 そして使う武器によってもスキルが違ってくるのだ。


 剣を使う力属性の人斧を使う力属性の人はそれぞれ学べるスキルが違うように、力属性の人は血筋によって扱えるスキルが大体決まっていると言える。


「……難しい」


 今のエリカは自分の部屋で絶賛勉強中である。


 半年後に行われるであろう試験に備えて頭を振り絞って共通魔法や理論勉強をしているわけである。


「属性魔法が使えれば加算点がもらえるけど、やっぱり、カールが目指しているSSクラスで一緒に学びたい……」


 ボルジア家は武を代表する貴族家。


 よって、戦闘に関する知識以外は全体的に苦手である。

 

 でも、カールにふさわしい女になりたい一心で、サッカーやりましょうという執事たちの誘いも断って、ひたすら受験勉強をやっている。


 本来、彼女もキモデブのカールの時と一緒で合格できるほどの実力ではないが、彼女の母であるエイラという圧倒的強さを誇る女公爵にお近づきになりたくて、オルビス魔法学園の関係者たちは口裏を合わせてエリカを合格させることになってはいるが。


「んああああ!!やっぱり難しい……あとで知らないところはハミルトン家のメイドたちに聞いてみるか」


 今日の分の勉強を終えたエリカは疲れたように机に突っ伏す。


 昼間の明るい日差しが照りつけており、そよかぜが自然の匂いお運んでくる。


 それと同時に漂ってくる血の匂い。


 落ち込んでいたエリカは水を得た魚のように急にイキイキし出す。


「エリカ、時間だ」

「はい!」


 言われたエリカは嬉しそうに返事してドアを開けた。

 

 そこには自分を産んでくれた母であるエイラがいた。


 動きやすい甲冑姿をしており、赤い髪はうなじまで届く。そしてエメラルド色の切れ長の目は自分と同じなのに、他者を圧倒する覇気みたいなものを纏っているようだ。

 

「今日は予定通り我がボルジア家に伝わる力属性スキルをみっちり叩き込んでやろう。準備はできたか?」

「はい!」


 エリカは興味津々な目で頷いた。


X X X


ボルジア家所有の荒地


 ここはボルジア家の屋敷の隣にある荒地である。


 大規模な訓練の際は屋敷にある訓練施設を使うのではなく、この広々としている荒地を使う事になっている。

 

 エリカの専属執事であるスカロンだけが同伴して、軽鎧姿の美女二人を見つめている。


 エイラは手をあげて目を閉じて呟く。


「出よ、鷹の斧!」


 すると、エイラの手に全長1メートルほどの斧が姿を現した。


 両方に鋭い刃がいて、真ん中には尖った槍のようなものがある。バランスの整っているデザインだ。

 

 RPGゲームに出てきそうな斧だが、斧腹のところにはボルジア家を象徴する獅子の徽章が刻まれていた。


「エリカ、我々は斧を使う一族だ。故にこれを使うんだ」

「はい」


 エイラはそれをエリカに渡す。


「これならエリカでも扱えるはずだ」

「は、はい」


 エリカはもらった斧を一振りして、感心した。


「軽い……重さがほとんど感じられないわ」


 彼女は1メートルほどある斧を不思議そうに見つめる、


 そんな自分の娘を見てエイラが口を開いた。


「エリカが私の娘である証拠だ。我々一族が持っている力属性は斧との相性がよくて、斧を手にした時には重さをほとんど感じさせない働きをする。鷹の斧は軽くて鋭い刃を持っている。だから、斧を初めて本格的に使うエリカにもってこいだ」

「なるほど……」

「まずはお手本を見せてやろう。スカロン、用意しろ」

「はい!かしこまりました!」


 エイラから命令を受けた執事のスカロンは持ってきた袋から真っ黒な水晶玉を取り出しては、固唾を飲んでエイラを見つめる。


 するとエイラは顎で、ある場所を指し示した。


 スカロンは緊張した面持ちで頷いてワンドを握ってその真っ黒な水晶玉に魔法をかける。


「封印、解除!」


 そう唱えると、水晶玉は真っ黒な光を放ち、スカロンは早速エイラが指し示した方に水晶玉にムービングをかけて移動させた。


 すると、水晶玉が割れ、そこからは

 

 10メートルなんか優に超える水牛っぽいモンスターが現れた。


『ヴアアアアアア!!!』


「お母様……これは一体……」

「魔境に生息するブラック水牛だ。よく見ておけ」

「……」


 エイラはブラック水牛のところへ歩き出す。


 凶暴なブラック水牛は怒りをぶつけるように地団駄を踏んでは、エイラを見つめて、全力で走ってきた。


「出よ、


 エイラが唱えると、彼女の手に全長に2.5メートルほどの斧が姿を現した。

 

 エリカの鷹の斧と比べて刃が非常に大きく、美人であるエイラがそれを持っている姿は現実離れしてる印象を抱かせる。


 エイラは目を細めて自分の斧を振った。


 すると走ってくるブラック水牛のツノと、エイラの斧がぶつかる。


 衝撃波によって砂埃が巻き起こり、エリカとスカロンは目を丸くして、エイラの威厳溢れる姿を見る。


「ヴ……ヴアアアアアアア!!!」


 ブラック水牛は叫んで、エイラをツノで押し倒そうとするが、エイラは微動だにせず、斧でツノを防ぐ。


 数十秒間、対峙するエイラとブラック水牛。


 エイラは至って冷静な表情のまま口を開く。


「ボルジア家の血を継いでいるものなら、スラッシュ、アッパスラッシュ、ダウンアタックが初めから使える。この三つをしっかり押さえておかないと、ハイランクの攻撃スキルを使うときに威力が極端に減ってしまうんだ」


「「……」」


「まずスラッシュからだ」


 エイラはそう言って怒り狂うブラック水牛を斧で押して、


「スラッシュ!」


 と唱えた。


 そしたら斧の刃のところが真っ赤な光を放ち、エイラは力を込めて斧を振る。


 すると、ブラック水牛は真っ赤な光と鋭い刃によって攻撃を受けて、倒れた。


 そして、素早く


「アッパスラッシュ!」


 そう唱えて、今度は両手で斧を下から押し上げるようにブラック水牛に当てる。


 すると、今度は斧に真っ赤な電気が流れて10メートルが超えるブラック水牛は20メートルほど宙に浮く。


「ヴエエエエエ!!!」


 エイラはブラック水牛のところにジャンプした。

 

 エイラは上から巨大な斧の先端の尖った槍のところでブラック水牛の胸のところを突き刺した。


「ヴエ!?」


 エイラはまた唱える。


「ダウンアタック!」


 すると、エイラの後ろのところに赤い光が現れ、まるで飛行機のジェットエンジンのように輝きを放つ。


 それと同時に、エイラはものすごいスピードで地面に向かって落ちる。


 もちろん、胸をやられたブラック水牛も一緒に落ちて、


「ヴアアアアアアアアア!!!!」


 ブラック水牛が地面に当たると同時に断末魔の声を上げる。


 ぶつかった衝撃で再び砂埃が大地を舞い、エリカとスカロンは目を見開いて、この物々しい光景を見つめる。


 ブラック水牛はすでに死んで、灰になっていくつかのアイテムをドロップした。


 165センチほどの美女が10メートルを超える巨大なモンスターをこんなに簡単い倒すとは。


「「すごい……」」


 強さとカリスマと美しさを兼ね備えたエイラを見て、エリカとスカロンは憧れの視線を向けてくる。


「エリカ、できるか?」


 母の強烈な視線を向けられたエリカは握り拳を作り、答える。


「はい!」


 エイラはスカロンに目配せする。


 スカロンはふむと頷いて、袋から小さな灰色の水晶玉を取り出してさっきみたいに魔法をかけた。


「ブヒブヒブヒイイイイ!!!」

 

 今度は3メートルほどの巨大猪が現れた。

  

 いつしか自分のミスリルの大斧を魔法で消したエイラはエリカとスカロンのところに戻ってきた。


「エリカは強い。斧を握ったことがなくても、ボルジア家の人間だけしか持ち得ない本能が、全てを導いてくれるはずだ。けれど、油断はするな。相手は相当強い」

「わかりました」


 エリカは斧を強く握って巨大猪の前に立つ。


「ブヒ!?」

「さあ、来なさい!」

「ブヒイイイイイイイ!!」

 

 巨大猪は全力でエリカに向かってやってきた。


「覚悟しなさい!スラッシュ!」


 そう言って、エリカが鷹の斧に力を込めて振った。


 しかし、


「っ!」


 巨大猪はエリカの攻撃を避けて、そのまま体当たりしてきた。


「きゃあ!!」


 50メートルほど飛ばされたエリカ。


「エリカ様!!!」


 スカロンが倒れているエリカのことが心配になり近づこうとするが、エイラに止められた。


「エイラ様……」


 スカロンは唇を噛み締めて俯いた。


「ブッヒ!!!!!ブブブブブブブッヒヒヒヒヒ!!!!」


 優越感に浸っている巨大猪はエリカにとどめを刺そうと倒れている彼女の向かう。


「やられてたまるか……私は……私は……」


 小声で呟きながら立ち上がるエリカ。


!!」


 エリカの宣言じみた言葉を聞いてエイラは目を丸くして呟く。


「カール……」


 エリカは巨大猪に向かって大声で叫ぶ。


「スラッシュ!」


 今度は鷹の斧をさっきみたいに大きく振るわけではなく、母の動きを思い出して巨大猪の頭を狙って的確に振る。


 そしたら鷹の斧のスラッシュが巨大猪の頬に当たる。


「ブッッッッッヒ!?」


 もろにダメージを食らって戸惑う巨大猪。


 だが、エリカは隙を与えない。


「アッパスラッシュ!」


「ブッ!」


 5メートルほど飛んだ巨大猪。

 

 早速ジャンプをして、巨大猪の胸に斧の先端の尖った部分を突き立てて


「ダウンアタック!!」


 スラッシュもアッパスラッシュもダウンアタックも威力自体は自分の母の足元にも及ばない。


 だけど


 彼女の熱い意志は、巨大猪を圧倒してしまった。


「ブイ〜」


 巨大猪は灰になり、いくつかのアイテムをドロップした。


 いくらボルジア家の血を継いでいるとはいえ、巨大猪は強いモンスターだ。


 強い存在を倒したということで、エリカは興奮状態だ。


 そんな自分の娘を見て、やっぱりあの子は自分の娘だと改めて思い、口角を微かに吊り上げるエイラ。


「お母様!やりましたよ!!」



X X X


 しばしの時がたった。


 スカロンは後片付けを終えて屋敷に帰り、エリカとエイラは母娘仲良く荒地の芝生のところで横になっている。


「そんなにカールのことが好きか?」


 母に問われたエリカは躊躇いなく目を輝かせて返答する。


「大好きです!」

「……」

 

 エイラは憎んでいる男の息子が自分の愛する娘と婚約関係であることにまだ頭が追いついてない。


 けど、さっきの戦闘でエリカを動かせていたのは、ボルジア家だけが持つ戦いを渇望する本能もあるけど、そこへカールへの想いも加わっていた。


 エイラが青空に飄々と漂う雲を見てため息をつくと、エリカが上半身を起こして、自分を見下ろしてきた。


「お母様もアーロン様と仲良くしてください。最近はまた宰相にもなって、イラス王国のために頑張っておられますから」

「そ、そんなのできるわけがない!あいつはいつか潰しておかないといけない男だ!」

「はあ……頑固だから」



X X X


数日後


ハミルトン家


カリンの部屋


「んんん……」


 カールの妹のカリンは怒っている。


 すごく怒っている。


「今日もお兄様はエリカさんと一緒にデートに行きました……」


 頬をフグばりに膨らませるカリン。


「いっぱい甘えたかったのに……格好よくなったお兄様にいっぱい甘えたかったのに……」


 カリンに瞳はとっくに色褪せていて、ドス黒い何かが出ている。


「あは、あははは……あはははははは!!!」

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