隙間女
突然腕を掴まれた俺は思わず声を上げた。
「うおわっ!?誰っ!?」
俺は掴まれた腕を引き剥がそうとするが、頑なに離そうとしなかった。
誰だコイツは?メリーか?
「おいっ!メリー!!履歴書書こうとしてんだから邪魔すんじゃねぇよ!」
「は?、あたしならここにいるけど?」
俺の言葉を聞いたメリーさんが後ろから声を掛けてきた。振り向いた俺は首を傾げる。
「あれ?メリーじゃないの?」
「はぁ?何言ってんの?なんでそんな所に手を突っ込んでんのよ」
「え?んじゃ……誰コレ?」
「なんの事よ?」
メリーさんが俺の背中越しにタンスの隙間を覗いて見ると、隙間から腕が出ていた。
「誰よコレ」
「はーちゃんや、花ちゃんじゃないよな?」
「そうね、八尺さんも花子もそっちで雑誌読んでるわよ。くねくねちゃんもそこにいるし」
「そうだよね?おいっ!お前誰だ?最近隙間から視線を感じてたのはコイツが原因だな」
「……………」
返事がない、ただの腕の様だ。
「なんだコイツ、変なヤツだな」
「ねぇ?このタンス退かせば良いんじゃない?」
「あっ、そっか!はーちゃん!はーちゃーん!」
俺が八尺様を大声で呼ぶと、八尺様が頭を覗かせて来た。
「はぁい?なんですか〜?」
「ちょっとこのタンス退かしてくれない?」
「タンスをですか?はい、分かりました」
八尺様がタンスを持ち上げようとした瞬間、俺の腕を掴んでいた手は亀の頭のように腕を引っ込めた。俺の腕にはくっきりと手形が残っていた。
「あ〜あ、跡が残っちゃった」
「龍星さん、大丈夫ですか〜?」
「アレ?さっきまでの腕は何処行ったのかしら?」
俺達は辺りを見回したが、先程の腕が見当たらなかった。
なんだったんだ?あの腕は?
不思議に思ったが、俺はボールペンを拾い上げた。
「逃げたのかな?まぁいいや。はーちゃん、タンス戻して」
「はい、何だったんでしょうね?」
「へんなヤツもいたものね」
八尺様がタンスを戻した途端、さっきの腕がまた伸びて俺を掴もうとした。
うわ、また出てきた!?
「あぶねっ!」
「亀みたいに伸ばしてきたわね。なんなのかしら?」
「分かんねぇ……」
隙間から伸びた腕を眺めていると、その腕は手を動かし始めた。何をするのかと思っていたら、拳を握り始めた。そして中指だけを立てた。俺達はなぜか隙間に潜むヤツに挑発された。
「おいおい、ファッキューして来たぞ」
「腹立つわね」
「そ、そうですね……どうしますか?」
「引き摺り出してやりましょうよ。どんな顔をしてるのか拝んでやりたいわ」
「それもそうだな、どうする?この性格の悪いヤツ」
俺が八尺様とメリーさんに尋ねると、
「コレこそあんたの出番じゃない?」
「そうですね、龍星さんの出番だと思いますよ?」
「俺?」
あっそっか。
俺はボールペンをテーブルに置いて再び隙間に向かい、先程と同じ様に手を伸ばした。すると、また俺の腕を掴んだ。
かかった!
「綺麗なおててしてるねぇ?」
「───────っ!?」
掴んで来た手を俺は掴み返し、俺は手に顔を近づけて。
「ベロベロベロベロ!!」
「〜〜〜っ!?」
高速に舌を動かし、掴んで来た手をベロベロと舐めまわした。それにより手はヨダレまみれになった。それを見ていたメリーさんと八尺様は顔を青ざめさせ、
「あんた、ホントに気持ち悪い……」
「まさかここまでするとは思いませんでした」
「やめろ、そんな目で見るな。これは正当防衛だ」
隙間から現れた手は余程気持ち悪かったのか、ブルブルと震えていた。
だが俺は可哀想とは思わない!!。
俺は畳み掛ける様にスボンをゴソゴソとズラし、アレを出してアレを掴ませた。手は何を掴んでるのか分からないのか、もそもそと動かす。
「お、おっふ……」
「龍星?どうしたの?」
「どうしたんですか〜?」
八尺様とメリーさんが俺の覗いた瞬間、
「あ、あんた!?なんでそんなもんだしてんのよ!?」
「り、龍星さん!その、なんでおっきくさせてるんですか!?」
顔を真っ赤にさせて騒ぎだした。だが、俺は冷静に答える。
「何を騒いでるんだ?」
「騒ぎたくもなるでしょ!?なんで出してんのよ!しまいなさいよ!」
「くねくねさんは知らなくていいですからね!?」
「ん〜?」
くねくねはなんの事やらという顔をしながら首を傾げる。すると、メリーが動いた。
「龍星、早くしまいなさい。最後の警告よ?」
「そんな事言ったって、コイツが離さないんだよ」
「なんでそんな事したのよ、バカじゃないの!?」
「龍星さん……あの、離れてくれませんか?」
「いや、だから無理だって」
俺がそう言うと、八尺様とメリーさんが顔を見合わせ、頷いた。そして、メリーさんが俺の体に手を回し始めた。
ん?何のつもりだ?
そして、
「八尺様、いいわよ!引っ張って!」
「はいっ!よいしょー!」
「いだだだだだだだ!!」
俺のカブはなかなかな取れません!!
俺の悲鳴が家中に響くと、騒ぎを聞きつけた花子さんとお菊さんがやって来た。
「うるさいのぉっ!なんの騒ぎじゃ!!」
「どうなさったんですか!?」
「花子、お菊さんも手伝って!!」
「なんじゃ?八尺を引けばいいのか?」
「ならわたくしは花子さんを引けば良いんですね?」
「くねくねも手伝ってくれる?」
花子さんは八尺様の後ろについてお菊さんは花子さんの後ろについた。くねくねもお菊さんの後ろについた。そして、メリーさんの掛け声とともに、
「はいっ、せーのっ!」
「「「よいしょー!!」」」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!もげる!もげるぅぅう!!」
それでも俺のカブは抜けません!!
だが、俺を掴んで離さなかった腕が徐々に引っ張られ姿を表した。隙間から現れたのは、髪の長くスラリとした体格でくびれる所とふくらむ所がはっきりした体つきの女性だった。
「誰!?」
「初めてみるお方ですね?」
「お主、何者じゃ?」
「お客様ではなさそうですね?」
隙間から現れた女は口を開いた。
「私の名前は【隙間女】ちょっとこの人を脅かそうとしただけよ」
すきま女?
俺は股間を抑えながらスマホを取り出し、すきま女を検索した。
隙間女。部屋の中にある、ほんのわずかな隙間に潜むという女の都市伝説。目撃者によると、部屋にいるときに視線を感じたりしたという。部屋を見渡したが誰もいなく、ふとタンスの隙間と壁の間をみると、数センチの隙間から女がじっと見つめいるという。
スマホの情報を調べた俺は、
「ふーん。ってか、狭くないの?」
そう尋ねると、隙間女が話し出した。
「狭くないよ。別に、隙間さえあれば私はどこにでも現れるもの」
「ふ〜ん、悪さとかはしないの?」
俺が聞くと、隙間女は首を横に振った。
「特になにもしないわよ、今さっき見たいに脅かすだけ。けど、あんた見たいにセクハラして来たのは初めて くさっ!あんた歯磨いてる!?」
「してるよ失敬な!。悪さしないんだったらちょっと大人しくしてて、履歴書かくから。暇ならそこのくねくねとお茶でも飲んでて」
俺はボールペンを持って履歴書を書き始めた。
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