Episode.24 出会い
「アイラ、早くしないかい!」
キリシュの、年齢の割に
「ま……まってください……」
対して疲れをにじませたアイラに、キリシュのため息がふりかかる。
「まったく最近の若いもんは、根性ってのが足りないよ!」
アイラの先を行くキリシュが、木の根に足をかけて振り返っている。それを見あげて、アイラもまたため息をついた。
「キリシュさんが……早すぎるだけです……!」
息を整えながらそう文句を言ったアイラを、キリシュは鼻で笑ってみせた。
「そりゃあ、アタシはここで育ったからね」
「ここで……?」
首をかしげると、誇らしげな表情が返ってきた。
「ああ、正確にはこの奥にある里で」
「里って……シキですか?」
「ぁあ?当たり前だろう。妖精の森の奥にある里なんてシキしかないよ」
シキ。エルフの住まう、秘められた里。それを囲むように、妖精の魔力によって守護される「迷いの森」が存在する。そこは、明確な意志を持つもの以外が立ち入れば迷って出られなくなってしまうとされる場所だった。故に、人間は近隣に住む者であっても足を踏み入れようとはしない。
「シキに……一体どうして……?」
「あんたの魔力を磨くために決まってるだろう!量は申し分ないが、質はまだまだだからね!」
吐き捨てるような口調だが、アイラは知っていた。キリシュが期待した相手にはぶっきらぼうな態度を取りながらも学びの機会を与えることを。そういう場面を何度か見たことがあるし、現に今だってそうだ。本当はもっと早く歩けるのだろうが、アイラに歩調を合わせて少し先を歩くに留まってくれている。
「族長が、あんたの話をしたらぜひ来るようにって言ってたんだよ」
シキの族長といえば、長く生きていることやもともとのエルフの性質を所以に、大陸で最も精密な魔力操作をすると言われている人物だ。
「族長に教えを乞うことができるんだ、あんたは幸福だよ」
「……!はい!」
慈しむような目でそう告げたキリシュに、アイラの足は早まった。
―♦――♦――♦――♦――♦―
それからしばらく歩くと、急に開けた場所に出る。森の中心にありながら明るい陽射しに照らされるそこには、帝都の祭りで見たことのある伝統衣装を纏ったエルフが数多くいた。「日常」を過ごしているらしい彼らを背景に、数名のエルフが並んで立っている。中央にいる女性が、おそらく族長なのだろう。並んでいた彼女たちは、アイラとキリシュの姿を認めるなり頭を下げた。
「よく来たのじゃ」
つられるように頭を下げたアイラの耳に、族長の凛とした声が聞こえた。
世界を創った詩と終焉の風 峰上クロ @mikamikurone
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