Episode.3 始まりの祭典(1)
季節は巡り、夏。
晴れた日の増えるこの時期に、帝都ルクシュエには世界中から人々が集まってくる。
ただ集まるだけならいつもの光景だが、この時期は違う。集まる面々は、皆一様に「自分たちの自慢の料理」を持ち寄るのだ。
――帝国一大イベントである食の祭典は、もう眼前に迫っていた。
―♦――♦――♦――♦――♦―
「バーニー、早く!美味しいの売り切れちゃう!」
普段は物静かなアイラが、珍しくバーナードの先を行く。そんな浮足立ったアイラの前にも、更にその前にも、制服を着ている学園生の群れが続く。長蛇の列が続く先は、帝都への乗り合い
なぜなら、帝都で開かれる食の祭典――〈フィエスタ・デリシオーサ〉は、毎年激戦区と化すためである。うかうかしていると、食べたいと思っていたものや美味しそうだと感じたものはあっという間に売り切れてしまうのだ。
普段なら生徒会メンバーである二人は優先的に翔馬車に乗れるのだが、この祭りの日だけはそうもいかない。結果、美味しいものを食べるには急ぐしかないという状況に陥るのだ。
「バーニー、手!」
満員になりかけの翔馬車にどうにか乗り込んだアイラが、数歩遅れたバーナードに手を伸ばす。それを掴んだバーナードが翔馬車に乗り込んだ瞬間、満員の合図とともに翔馬車が空へ飛び上がった。周りを見ると同じように満員になった翔馬車がいくつか飛んでおり、少々幻想的な風景を作り上げている。実は、大量の翔馬車が空を飛び回るこの光景はかなり有名で、食事よりもこの光景を見るために帝都まで訪れる人もいるほどには美しいのだ。
「なんとか間に合いそうだね……」
ほっと息をつくアイラの横で、バーナードはまだ肩で息をしていた。体力が続かないのだ。
「…飯より先に飲み物探そう。じゃねえと死ぬ」
やっと息を整えたバーナードの口からこぼれたのはそんな情けない言葉で。アイラは思わず笑ってしまった。
「ふふっ……バーニー、猫みたいだよね」
「猫ォ?」
怪訝そうな顔を見てまた笑いながら、アイラが再びバーナードをからかう。
「そ、猫。体力が全然続かなくって、すぐバテちゃうところとか」
アイラにそう言われ、バーナードの口から「にゃーん………」などと、なんとも似合わない言葉が出る。それを見てさらに笑みを深めるアイラに、黒猫は拗ねてしまったようだった。
そうこうしている間に、翔馬車が帝都の停留所に滑り込む。おびただしい学園生の群れが会場に流れ込むのと同時に、祭りの開始を告げる鐘が高らかに響く。
昼からは中央の広場で余興が、夕方には皇帝や七空を交えたパレードが行われる。
アストリスタ魔導帝国の夏の季語。食の
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