第51話 全てが移ろい変わる
気付いた時には遅かった。
最近、そういうことばかりな気がする。
特にセシリアとは友人か、もしくは知り合い以上の関係性ではないかと思っていた。
そりゃあ同じ四大公爵家に数えられる身分だし、似通ったところはある。
だが、まさか惚れられてるとは思うまい。
リリアは
フローラはぶっちゃけ今でも理解できていないが、幼馴染で従姉妹だから繋がりは深い。まあ納得できなくもない。
けどお前は違うだろうセシリア。
家が同格なこと以外は幼馴染でもなければパーティーで顔を合わせたくらいの仲。
それが、弱みを見せたことで好きになった?
支えてあげたいと思った?
どうしてそうなったのかと頭を抱えたくなる。
いや最近はまじで頭を抱えることが多すぎて、将来、頭皮が心配だ。
俺は前世でセシリアのルートはあまりプレイしてなかったから、ひょっとすると知らないうちに彼女のイベントもこなしていた可能性はある。
弱音を吐くのが彼女の好感度を上げる条件だったりして。
……まさかな。
そんなことあるわけないと即座に自分の意見を否定し、俺は首を振ってオレンジ色の太陽を見つめた。
太陽は物悲しげに世界を照らす。
まるで今の俺の心境のようだ。
ゲームの頃のマリウスとは異なるルートを選んだ末に、結局、ゲームのヒロイン達と深く関わることになった。
この先、もう一人のヒロインと主人公とはどんな関係になるのか。
嬉しいような哀しいような、複雑な気持ちを抱く。
だがここでいくら考えたところで答えは出ない。
進んだ道を戻る術はない。
俺は肩を竦めて先ほどの件を頭の片隅から追い出し、ゆっくりとその場から離れる。
まもなく学校がはじまる時期だ。
本当の意味での戦いは、そこからである。
セシリアが先に自宅へ帰ったので、俺も早々にメイド達を引き連れて自宅へ帰った。
セシリアの家に比べれば若干の距離はあったが、逆に今日のことやこれからのことを整理するのに使える。
脳裏では迫る本編に向けて様々な対策が……とられはしなかった。
「だるい……学校、行きたくない……」
思わず口から本音が漏れる。
ただでさえゲームにそこまで詳しくないのに、自分が知るルートから外れ、その上でヒロイン達と関わってしまった現在。
この状況で仮に主人公たちにヒロインを奪われたら、俺は一体どんなエンドを迎えるのか。
円満に解決できるならそれに越したことはないが、それはそれでなんとなく引っかかる。
認めたくないが、どうやら俺は嫉妬のような感情を抱いてるらしい。
惨めだ……情けない。
自分で彼女たちと関わらないようにしたはずなのに、いざ好意を向けられると卑屈になり、かと言って奪われるとモヤモヤする。
面倒臭いとは別の理由で自分自身が嫌になる。
『私がずっとあなたを疑わせてあげる。ずっと一緒にいてあげる。そしたら、いつか疑いは確信に変わるでしょ?』
ふいに、先ほどの光景とセシリアの台詞が脳裏を過ぎった。
純粋に嬉しいと感じたのは久しぶりだ。
それだけに、相反する気持ちがぶつかり合って思考がまとまらない。
信じたい自分と、それでも怖い自分がいる。
「俺は一体……この先、どうすればいいんだ? 本当に……俺は今だ、悪役貴族のマリウスのままなのか?」
世界は移ろい変わる。
ヒロイン達はマリウスに恋をし、確実に本編とは別のルートを歩んでいた。
最終的には矯正されるのか、それともこのまま進むのか……。
もはや、マリウスがどんな存在なのか、本人である俺にもわからなかった。
結局、進んでみないことにはわからない、か。
俺は徐々に紺色に変わる空を見上げながら、珍しく、自宅へ着くまでのあいだ考え事を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます