第49話 ピーチ・フェイス

 朝方家にたどり着いたが、妻は帰っていなかった。よくあることだ。別に構わない。

 むしろ、起こさないようにとこそこそせずに、おおっぴらにシャワーが浴びられる。

 そっちの方がいい。

 バスタブに湯をためシャワーを浴びた。刺すような水勢のシャワーは、脳味噌をせきたてる。

 考えろ。

 戦え。と。

 ゆっくりと考えた。シャワーに導かれるままに。

 私は数字を憎んでいて、200勝を目指すあまり、パラノイアへと変わりつつある。

 その原因を生み出した犯人がいる。諸悪の根源だ。

 それから?


 まだ足りないものだらけだった。必要な数字が出揃っていないのだ。

 体が温かいままベッドに入った。ライムを絞った炭酸水を一口飲み、顎まで布団をかぶった。頭の中は引っ越す直前の部屋のようにがらんどうで、寝付きは悪くなかった。


 ……これは余談だ。

 後日、週刊誌に私に関する記事が載っていた。映画館から出てきた様子がパパラッチされていたのだ。

赤ら顔ラディ・フェイス、夜の顔はピンク顔ピーチ・フェイス!?』

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