第33話 滑稽噺

 実際彼女は、私以上にポルノ・ビデオを持っていた。彼女は一番の『お気に入り』を私に見せた。そのビデオはパロディもので、タイトルは『かめあたま山』だ。(嫌な予感がするだろう?)。

 彼女はその内容を語り始めた。

 話しながら、何度も彼女は自らの傷痕を撫でた。私はその傷の膨らみや、薄茶けた縫い目に気を奪われていた。

「『かめあたま山』はね、ラクゴっていう話芸の演目の一つ『あたま山』のパロディなの。ラクゴはね、極東の島国の下町ダウンタウンを舞台にした物語を、一人芝居で話すのよ。大体滑稽噺コメディとか、人情噺ヒューマニティ・ストーリーが多いんだけど、この『あたま山』はちょっと異彩を放っているの」

どういうどーゆー風に?」

 いいかげんに尋ねると、彼女は得意気に口角を上げた。

「これはね、SFラクゴなのよ。SFっていっても……」

「いいから話を進めてくれないか?」

「なによ、せっかちね」

 彼女はまず、パロディ元である『あたま山』について、嬉々として話し始めた。

「ある男がね、サクランボを食べてたら、種を飲みこんじゃうの。そしたら、頭のてっぺんから桜の木がニョキッと生えちゃうわけ。男は、それが邪魔だってんで抜いちゃうんだけど、今度はその穴に水がたまって、池ができちゃうの。みんなは物珍しがって押しかけるんだけど、男は、それが嫌で仕方ないのよ」

「まぁ、そうだろうな」

「思いつめて、自殺しちゃうの。その方法が変わってるんだけど。わかる?」

「……さぁ。見当もつかないな」

「もう少し考えてみてよ」

「いいから言ってくれ」

「……自分の頭に飛び込んで、入水自殺するのよ? どう、面白いでしょう?」

 どう返答していいか思いつかなかった。しばらく悩み、どうにか言葉を捻り出す。

「そんなことできるわけないだろう」

「どうして? そしたら頭から桜の木が生えることだってあり得ないじゃない。でも、あなたはそれを否定しなかったわ。どうして?」

 彼女は徐々に早口になる。こうなるともうお手上げだ。

「……あー、いいよ。わかった」

 彼女のいきすぎた熱が、私の頭をぼんやりとさせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る