01 仮面のめかまじょの素顔

 とりたちの足元には白銀色の、胸に大穴の空いた女性型の機体が仰向けに倒れている。

 仮面で目元が覆われている。

 鼻や口など見えている箇所や、ブロンドの髪の毛からして外国人または外国人風のロボットなのだろう。


 どうして彼女がここに倒れているのかというと、自滅である。美夜子に格闘戦において圧倒され、挽回しようとするあまり動力源たる魔道ジェネレーターの出力を大幅に上げ過ぎて爆発させてしまったのだ。


「こいつ、どないする? 美夜子」


 みやもとなえが、眉を寄せた妙に渋い顔で尋ねる。

 美夜子と下の名で呼ぶ恥ずかしさ気持ちよさを、ごまかしているだけかも知れない。


「彼女自身には恨みはないしなあ」


 うーん。美夜子もちょっとだけ眉を寄せて、考え込んでいる。


「美夜子は、ほんまお人好しやなあ。ええか、首をちょん切られて一度は殺されたんやで」


 後からのりまき青年に聞いたところでは、おそらく非常用動力で脳へ最低限の酸素供給は行われていたから、正確には死んだわけではないらしいが。まあ同じことではある。


「でもまあ、いまは繋がっているから」


 自分の喉を押さえて、美夜子は笑う。


 いま思い出しても不思議なことだ。

 美夜子のオリジナル体であるヒトミヤコ(早苗が命名)と魂が溶け合って、気が付いたらこの赤い機体からだの中に戻っていたのだ。

 首を切断された、というのはその間の自分の意識がないから分からないけど、早苗がいうのだからそうなのだろう。

 でも、そんな痕跡などは微塵もなく、首どころか機体にも傷ひとつなかった。あれほど破損だらけで、いたるところショートして火花が散って、いつ爆発するかというくらいだったのに。


 そんな、現在の認識と記憶がいまいちふわっと曖昧であることが、この白銀の少女を恨みの視線で見られない大きな理由だろうか。

 確かに彼女には色々と大変な目には遭わされたけど、この子にも誰かに操られていたとか仕方のない事情があったのかも知れないし。


「それにしても、誰なんやろなこいつ。美夜子のおとんの日記に書かれてた、ML教団の刺客やろか」

「そう考えるのが妥当な気がするね」


 さもなければどこぞの産業スパイ、しま博士も知らなかったどこかの手の者。


「髪の色とか、日本人っぽくないんやけど」

「そりゃどう見ても外国の子だよ。強化服で中身は生身か、それともめかまじょか、または外国人風のアンドロイドか」

「剥いで拝んだろか」


 早苗の言葉が天へと届いたから?

 ピシリ。静かな部屋に、鋭い音が響いたのは。

 白銀の少女の、顔を覆っていた仮面に亀裂が走ったのは。

 おそらくは続く戦闘により脆くなっていただけのことであろうが、とにかく仮面は真っ二つに割れて床に落ちたのである。

 晒される、少女の素顔。

 それを見た美夜子と早苗の顔に浮かぶは、驚愕の表情であった。


「イリーナ、さん……」


 美夜子の口から漏れる吐息にも似た小さな声。


 そう、白銀のめかまじょともいうべき外国人少女の、仮面の奥に隠されていた素顔は……ディアナ・レジーナ財団の特派員であるイリーナ・グラディシェワにそっくりだったのである。

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