07 迷いの中で

 魔法格闘の武闘場と化した地下室で、赤いめかまじょと、めかまじょに似た白銀の人影とが戦っている。

 戦っているといっても、勢い一方的。

 あまりにも絶対的な、戦力差であった。

 赤いめかまじょ、とりがなすすべなく攻められ続けている。


 どん、どん、重たい音が響く都度、床が、壁が、空気が激しく震える。


 白銀の人影は、まださしてダメージを受けておらず、機械の身体をしなやかに動かしては、精霊の力を纏わせた鈍く輝く手足で赤いめかまじょを攻撃し、追い込んでいく。


 対して赤いめかまじょ美夜子は、損傷が激しくてまともに身体を動かせない。

 必然、防御に徹するしかないわけだが、この状況で矢継ぎ早な攻撃をかわし続けられるはずもなく、少しずつ損傷を蓄積させていくばかり。戦力差を広げていくばかり。


 でも……

 きっ、と白銀の機体を美夜子は睨む。


 だからといって、ここで引き下がるわけにはいかない。

 こんな、なんにも自分の気持ちが整理出来ていない状態で死ぬわけにいかない。

 だから、ここは絶対に守り通さないとならないんだ。


 無我夢中で防戦しながら美夜子は、その自分の心の声に対して自問する。


 なにから、なにを、守る?

 わたしは……

 このカプセルの中で眠っている、女の子……

 目覚めても、目覚めることのない。

 わたしを、わたしじゃなくする存在。

 わたしを、わたしにしてくれている存在。

 本当のわたし。

 本当の、わたし?

 じゃあ、わたしは……

 わたしは……

 なにを……


 ガードの腕をがんと跳ね上げられて、美夜子の赤い機体からだが後ろへよろける。


 生じた隙に白銀の人影は超低体温睡眠カプセルへと一直線、腕を振り上げ、拳を叩き落とした。だが、叩き付けるまではいかなかった。

 寸前、今度は白銀の人影の方がぐらりよろけた。美夜子がふらつきながらなんとか踏ん張り床を踏み付けて、その勢いで肩をぶつけたのである。


 ふっ、美夜子は鋭く呼気を吐く。

 顔を上げる。


 やっぱり、本物のわたしを……ヒトミヤコちゃんを、このめかまじょに似た相手は狙っている。

 生命を奪うつもりか、連れ去ろうとしているのか、それは分からないけれど……


 などと思考していたことが油断に繋がったか、それとも単なる戦闘能力の差か、美夜子は胸に蹴りを受けて、背後の睡眠カプセルへと背中をぶつけてしまう。

 ごおん、カプセルの下半分である金属が震え、内部の空間と共鳴して部屋に音を響かせた。


「ご、ごめん!」


 あまりに激しくぶつかってしまい、美夜子は反射的に謝った。

 しかしカプセルはガッチリ固定され、透明部分も強化ガラスなのかヒビ一つ入ってはいないようである。

 安堵するのと同時に、中で低体温状態のまま眠っている小取美夜子の肉体は無事なのかが気になって、目の前の相手を警戒しつつもちらりと内部を覗き込んだ。


「な……」


 覗き込んだ瞬間、赤いめかまじょの目が驚きに見開かれた。

 カプセルの中で横たわり眠っているはずのヒトミヤコもまた、かっと目を見開いていたのである。

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