06 守ってみせる!

 簡素だがかなりの金を掛けていると思われる、しっかりとした作りの部屋だ。

 とても広いが、とても狭い部屋。

 何故なら、乱雑に設置された大小の機械に空間がぎっちり埋め尽くされているからだ。

 その大小の機械からはコードやパイプが伸びており、制御盤や壁面のソケットなどに繋がっている。


 一番奥に、大男でも入れそうなカプセル寝台が横になって置かれている。それに気が付いた瞬間、どくり、の胸は高鳴った。

 めかまじょである彼女に、生身の心肺など存在しないというのに。

 上半分は透明ガラスであるが、曇っており、仮に曇っておらずとも中になにがあるのかここからでは角度的に見えない。

 しばらくそのまま立ち尽くしていた美夜子だが、やがて両の拳をぎゅっと握ると、また歩き出す。

 カプセル寝台へと、近付いていく。


 中が、見えた。


 小取美夜子が、そこにいた。

 小取美夜子が、曇ったガラスの中、目を閉じて横たわっていた。


 どん! めかまじょであるはずの美夜子の胸が、また高鳴った。

 自分とまったく同じ顔の少女。

 飛行機墜落事故に遭い、手の施しようがなく超低体温睡眠に入っているオリジナルの小取美夜子。


 本当だった……

 お父……博士の日記に書かれていることは、本当だった。

 わたし……どうすればいいの?

 こうやって本当のわたしに会うことが出来たわけだけど、それからどうしたらいいの?

 会えばなにか分かるかもと思っていたけど、なにをすればいいかも分からないし、会ったことによる感情の持ち方としても分からない。

 喜べばいいのか……恨めばいいのか……

 いやもちろん恨むなんていけないのは分かっているけど、でも……

 でも……


 目を閉じ横たわる美夜子の前で、心揺らし苦悩する美夜子。

 その苦悩する時間が与えられなかったのは、彼女にとって幸であったか不幸であったか。

 なにかが、投げ付けられていたのである。

 唸りを上げて飛ぶそれを、美夜子は反射的に振り返って受け止めていた。

 受け止め、そして驚いた。自分の手の中にあるのは、青い金属の腕だったのである。


なえちゃん……」


 そう、紛れもなく早苗の腕であった。

 左腕だ。

 ロケットパンチとして射出された前腕部ではなく、腕全体だ。

 肩からもぎ取られたものか、断面はショートしてバチバチ火花を散らしている。


 がちゃり、がちゃり……

 それはあえて足音を殺さずにいるのか、闇の中から浮かび上がるように、仮面で顔を隠した女性型の人影が姿を現して、白銀の機体からだを鈍く輝かせた。


 美夜子は瞳を震わせた。


 早苗ちゃん、負けてしまったのか。

 わたしが甘くふわふわしていたばかりに、無茶をさせてしまったから……

 でも、きっと無事でいるよね。

 上手く逃げ出しているよね。

 だから、ここは……ヒトミヤコちゃんは、わたしが……


「守ってみせる!」


 赤いめかまじょは、火花散るボロボロの身を軽く落として戦闘の構えを取った。


 白銀の人影が床を強く蹴るのと、赤いめかまじょが床を蹴るのは、まったくの同時だった。

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