04 謎の襲撃者

 金属同士の軋り合う、聞く者の全身の神経を逆なでする不快な音。

 打ち付けられる白銀の襲撃者の拳をとりが肘で受け流し、そのまま腕が腕を擦り削るように滑ったものである。


 白銀と赤色、金属機体同士のぶつかりあいに、美夜子を顔をしかめる。この金属は身を守る鎧でもあるが、これ自体が自身でもあり痛覚が備わっているためだ。

 だけど、痛いと呻いている暇もない。

 次の一撃を半ば本能で察知してすっと身を屈ませる、その瞬間、頭上でなにかがぶんと唸りを上げた。

 白銀の足、謎の襲撃者の回し蹴りだ。

 避けたため、ただ空気を焦がしたというだけであったが、まともに受けていたならば頭部を砕かれていたかも知れない。または脳震盪で気絶していたか。それほどの勢いの蹴りだった。


「小取のアホに、なにさらすんじゃ!」


 青いめかまじょみやもとなえが怒声を張り上げ、白銀の襲撃者へと背後から殴り掛かる。

 だが大振りの一撃は、むなしく空を切っただけ。


 白銀の襲撃者が、先ほどの美夜子の回避動作よりもっと素早く滑らかな動きを見せて身を屈めてかわしたのである。

 屈みながら、同時に後ろへと足が蹴り出された。


「ふな!」


 背中を見せている相手に油断していたか単に血が上っていたか、顎を強く蹴られてガチリ鈍い音と妙な悲鳴とを上げて、早苗の機体からだは空中高く打ち上げられていた。


 どれだけの破壊力が、一撃に込められていたのだろうか。

 早苗は身動き一つ受け身も取れず、地に落ちた。

 先ほどのゼログラほどではないが地を砕き地を揺らして、彼女は動けなくなってしまった。


 宮本早苗を瞬殺した白銀の襲撃者は、もう小取美夜子と激しく殴り合っている。

 ブンブン唸りを上げた、拳の応酬である。


「誰ですか、あなた」


 打ち合いの中で美夜子は尋ねるも、返事はなく、返るは拳のみ。

 打ち合いといっても互角に渡り合っているわけではない。

 美夜子の方が押されている。しかも圧倒的にだ。

 まだ相手に一撃すら浴びせられず、反対に、顔にも腹にも何発か拳を受けている。機体が頑丈でなかったら、どうなっていたか分からない。


「奥の手!」


 なんだか分からない戦闘に使うのは嫌だったが、背に腹は変えられない。美夜子は腰のホルダーから精霊カセットを取り出して、左腕のソケットに差込んだ。

 いや、差込もうとした。


 ガチャッ

 カセットを、腕に差し込む音。

 白銀の襲撃者が、手にした白銀のカセットを自身の腕に差し込んだのである。


 精霊魔法?

 やりたいこと先にやられた!


 美夜子がそう思った瞬間には、彼女の赤い金属の機体からだは、白銀の両手から放たれる嵐に巻き上げられていた。


 やっぱり精霊、魔法……

 でも、何故……


 美夜子の身体も、早苗に続いて地へ落ちた。

 104キロに路面がガキリ砕けた。


「小取!」


 早苗の叫び声。

 ふらふら立ち上がった早苗が、関節損傷したかぎこちない動き方でもどかしそうに美夜子へと走り寄る。

 だが、そう焦る必要はないようである。

 既に、めかまじょに似た白銀の襲撃者の姿は、どこにも見えなかったからである。



 ボロボロになった美夜子と早苗、なんにも出来ない無力な警察機動隊員たちを、埼京テレビ杉浦鉄平のカメラは静かに捉えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る