02 それは闇に白く……
ひんやりと冷えた、暗い部屋である。
その中央に立っているのは、人間? それとも人工のものだろうか。
ごつごつとした、まるでロボットといった鎧を着込んでいる。
いや、着ているわけではなく、本当のロボットであるかも知れない。
そうか否かを迷うのは、首から上にあるのが人間の顔だからだ。
さらさらとした髪の毛も生えている。
目鼻立ちは、まったく分からない。
ここが暗がりということもあるが、目も鼻も仮面で覆われているからである。仮面舞踏会のように大きな、でもなんの模様もない地味な仮面に。
全身を覆っている鎧のような金属は、白い色に見えるが、これもまた暗がりであるため本当の色ははっきりしない。
人間であるとして、女性であろう。
柔らかそうな口元、身体のライン、百五十ほどしかない小柄な体格、肩まで掛かるブロンド髪、そういった点から判断して女性、ロボットだとしても女性型だ。
であるからして彼女と表現するが、現在、彼女は囲まれている。
男たちはみな黒っぽい繋ぎの服を着ており、暗がりに半ば溶け込んで彼女の四方から等距離で立っている。
どう見ても戦闘態勢だ。
つまり、彼女と彼らは敵対しているということだろうか。
または、なにかの特訓なのであろうか。
時間は動く。
静から動へと転じる。
男たちの一人が床を蹴って、彼女へと飛び掛かった。
溶け込む闇から飛び出すタイミングが絶妙であった。しかし通用しなかった。
す、と最小限の動作で、彼女は身体を捻りながら横へ動き、突き出された高熱ナイフを避けたのである。
さらに一人が、高熱ナイフを両手に持って突き掛かった。
が、それも同じ結果だ。
ほとんど密着といえるほど隣接した距離だというのに、まるでかすりもしなかった。
ならば、と男たち四人は全員で呼吸を合わせて挑み掛かるのだが、それは自分たちの無力さというか、ただ相手の強さを知るだけ、相手の強さを証明するだけだった。
彼女は、狭い隙間をジグザグにちょこちょことステップ踏んで、あわや同士討ちにと男たちをぶつけ合わせたのである。
高熱ナイフでお互いを切り付けることこそなかったものの、完全に遊ばれいることに変わりなく、段々と男たちの動きが熱く、激しくなる。
振るうナイフが、執拗さを増す。
ただ、そうなればなるほど、歴残とした力の差が証明されるだけであったが。
彼女は、ほとんどなにもしていない。でも、なにもしていないからこそ圧倒的な威圧感を発している。そんな戦いであった。
彼女は、高熱ナイフの攻撃を最小限の動きで軽々かわしながら、ちらりと壁のある一面へ視線を向ける。視線といっても目は仮面に隠されているが。
小さなガラス窓があり、その向こうに誰かがいる。
顔は逆光で分からない。
宗教めいた、大きな帽子を被っている、肩幅からしておそらくは男性、老人であろうか。
そのガラス向こうの老人が、小さく頷いた。
それが合図であった。
攻撃を避け続けていた彼女が、反撃へと転ずるための。
すっ、彼女は一人の男へと飛び込んだ。
その瞬間、その男は悲鳴すら上げることなく床を這っていた。
回し蹴りがガチと顎の先端を捉え、一瞬にして意識を失ったのである。
すっ、彼女は別の一人へと飛び込んだ。
がくりどさりと、その男は床に崩れる。
彼女の拳? 蹴り? 一体なにが起こったのかすら分からない早業であった。
残るは二人である。
普段から息の合う二人なのか、彼らは連係プレーで再反撃に出た。
一人がナイフを投げ、彼女がそれを弾く隙に、もう一人が猛然と飛び込み飛び蹴りを浴びせたのである。仕込みナイフの飛び出す足で。
正確には、浴びせようとしたがその足を掴まれていた。
片足を両手に掴んだ彼女は、プロレスでいうジャイアントスイングの要領で、自分を中心にして男の身体をぶうんぶうんと回し始める。
そして彼女は、ぶんぶん回しながら男の頭を、もう一人の男の頭へと容赦なく叩き付けたのである。
ガチと鈍い音が響き、二人の男は気を失った。
一人は床に倒れ、一人は彼女からポイと放られて、床に倒れた男の上に積み上がった。
「さすがの特殊兵も、あなたの敵ではないようですねえ。まあ、そうでないと意味がないんですけどねえ」
どこからか聞こえるのは、ぬめっとしながらもしわがれた声だ。
ガラスの向こうから見ている帽子を被った老人、彼の声であろうか。
暗い部屋の中央に、白い金属の、それは身体なのかそれとも鎧を纏っているのか、女性は一人立っている。
仮面の奥にある目は、なにを見ているのか。
気を失った四人の男たちに囲まれながら、身体をぴくりとも動かすことなくただ正面、ただ壁へと顔を向けている。
ふんっ、と暗がりの中に突然なにかが浮かび現れた。
赤い金属に身を包んだ、栗色髪の少女。
空間に少し透けて微かに揺れている。ホログラム映像のようである。
「覚えておいてください。それが、めかまじょです。あなたのお姉ちゃんを奪った憎い、憎い存在。悪魔の味方であり、そして……あなたの敵です」
ガラスの向こうにいる老人、顔ははっきりと見えないが、笑みを浮かべているのか口元の影が釣り上がるように深くなっていた。
彼女は、ロボット然と微動だにもせず立っていたのだが、その声に反応したのか不意に動き出す。
ぶん!
目にも止まらぬ速度で身体を回転させて、高く振り上げた足でホログラムの赤いめかまじょを蹴り抜いたのである。
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