07 青と赤の激闘!

 赤いめかまじょとりは、青いめかまじょの突進をぎりぎりのタイミングで横へステップ踏んでかわした。


 青いめかまじょ、みやもとなえは着地と同時に振り向いて、ニヤリ強気な笑みを見せる。


「小手調べや。それに、一発でのしてもうたら、おもろないし、な!」


 な、で地を蹴って、再び美夜子へと襲い掛かる。

 ぶん、ぶん、と唸りを上げる青い金属の右手と左手。


 摩擦に空気が焦げそうなほどの突きを、赤いめかまじょ美夜子はステップを踏み、頭をそらし、手の甲ではたき、冷静に流し続ける。

 すっ、と美夜子が身を低くした瞬間、ぶうんと唸りを上げて青い金属の回し蹴りが頭上をかすめた。


「うわ、危なかったあ!」


 美夜子は後ろに跳んで少し距離を取ると、特殊合金の胸に手を当てながらヘッドギアの中で安堵のため息を吐いた。


「手も足も、出えへんようやな!」


 小走りで距離を詰める青いめかまじょから、再び蹴りが放たれる。正面蹴り、後ろ回し蹴りのコンビネーション。

 機械とは思えない素早い動きだ。

 いや実際のところは機械だから素早いのであるが、まだこの時代の一般的認識としては、人型メカといえばチーガシャチーガシャの鈍重なイメージが拭い切れていないのだ。


 美夜子は横、跳躍して後ろ、と瞬時に見切ってかわした。

 手も足も出ない、のかどうかは分からないが、とりあえずどちらも出してはいない。何故なら美夜子は今、攻撃を見切る自身の能力を見定めているからだ。


 とりあえず、悪くはなさそうだ。

 人生で喧嘩なんかしたことないし、生身だった時の運動感覚がどうであったかなど覚えおらず、従って曖昧な判断基準ではあるが。

 機体性能、などというと人間ではないみたいで悲しくもあるが、なかなか俊敏に思った通り動いてくれている。


「ちょろちょろすんなあ!」


 青いめかまじょ宮本早苗は、腰のカセットホルダーに刺さっているカロリー○イト形状の細長いカセットを一本抜き取ると、右腕のソケットにガチャリ差し込んだ。

 刹那、彼女のすぐ前に突如として二つの大きな竜巻が発生した。

 さながら風神か神龍か、竜巻は校庭の砂を巻き上げながらうねうねと地を走り、挟み込むように美夜子へと襲い掛かる。


 美夜子はちょっとびっくりした表情を浮かべつつ、後ろへ大きく跳躍した。跳躍中の空中で、腰のホルダーからカセットを一本抜き取ると、右腕のソケットへと差し込んだ。


 爆音。

 美夜子の前で、地から炎が激しく噴き出して巨大な柱になった。

 二つの竜巻はその炎の柱へと吸い寄せられて、ぶつかり合って消滅した。

 炎で気圧の変化を起こして、竜巻を誘導したのである。

 風はやみ、視界も晴れて、ぱらぱら砂が落ちてくるのみであったが、だがその晴れた視界の先にいたはずの、宮本早苗の姿が消えていた。


「これでしまいやあ!」


 上から、声と同時にぶうんと唸りを上げて、美夜子の頭へと青い金属の足が振り下ろされた。


 美夜子は、びっくりするより先に身体が反応し、その足首を掴んでいた。だが、その瞬間にもう一本の足が顔へと迫り、掴んでいる足首を咄嗟に放して大きく後ろへ跳んで距離を取る。


 宮本早苗は、その瞬間を待っていたかのようにニヤリ笑みを浮かべると、左腕を伸ばし拳を美夜子へと突き出し叫ぶ。


「食らえや! ロケットパアアアンチ!」


 左腕の肘から先が切り離されて、まだ後方へと跳ねて空中にいる美夜子へと火を噴きながら飛んだ。


 く、と呻きながら、なんとか爪先を伸ばしてなんとか地を蹴って、美夜子はかろうじてロケットパンチをかわした。

 しかし……


「あいたっ!」


 ガチンと音がし、美夜子の目から火花が散った。

 反転して戻ってきた拳を、思い切り後頭部に食らったのだ。

 くらくら目眩、ぐらり倒れ掛けるが、足を踏ん張りなんとか持ち直すと、顔をしかめながら後頭部をさすった。


「なんだよ、ロケットパンチも使えるのか。あたししか使わないから、油断してた」


 痛みに、ちょっと涙目の美夜子である。


 そのわずかながら浮かべた苦痛の表情に、ちょっとだけ気持ちが満たされたか、青いめかまじょは声を出して笑った。


「なんやあ、逃げるだけで精一杯かあ? 情けないなあ」


 すぐに笑いをおさめると、畳み掛けるは今や、と地を蹴り美夜子へと身を飛び込ませた。

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